糸井重里さんに聞く、Webと手帳に書くことの違い 「Webは人の前、手帳はちょっとだけ裸」


糸井重里さんが主宰するWebサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」のオリジナルグッズとして2001年に誕生した「ほぼ日手帳」。糸井さんは手帳にいろいろなことを書き留める一方で、ほぼ日刊イトイ新聞のコンテンツ「今日のダーリン」でも毎日文章をつづっています。糸井さんにとって、Webと手帳に書く時の違いは何なのでしょうか。最近の手帳の使い方や意識する読み手など、書くことについて伺いました。

(取材・構成:はてなブログ編集部)

── もう15年以上続いている「ほぼ日手帳」ですが、糸井さんは今、どんなふうに使っていますか?

その年によって違うんですよ。今年(2017年版)は途中からカバーも変えました。しばらくアンリさんのカバー(革職人のアンリ・ベグランさんが手掛けたブランド「アンリークイール」とのコラボ)を使っていたんだけど、もっと実用として使いたくなって「MOTHER2」のカバーに変えてみました。

── まずは、見た目を変えて。

そう。僕自身が、浮気性なユーザーなんですよ。周りのみんなが手帳にいろんなものを挟んでうまく利用しているので、自分でもそれをまねてみて。筆記用具も途中から細いペンに変えましたね。そうしたら、ちょっと余計に書いてみたくなったり、月間カレンダーに目次みたいな内容を入れてみたり、急に手帳の使い道が変わりました。いろいろ試したくなっちゃったんですね。

── 2010年のインタビューでお伺いした時は、その日の体重だったりTwitterのフォロワー数だったりと、データを書き留めるという使い方をされていましたね。

数字を書き留めると、励みになるんですよね。体重の記録は今でもずっと続けているんですけど、手帳じゃなくて、スマホのアプリに記録するようになりました。

── 文章も書き留めていますか?

書いてますね。今は昔とは違って、自分の思考を掘り起こして書き留める、というふうに使っています。

── はてなでは「はてなブログ」というブログサービスを運営しているのですが、ブログと手帳は、物事をストックするように“書き留める”というところが似ているなと思います。糸井さんにとって、“手帳に書き留める”ということと、ほぼ日刊イトイ新聞の「今日のダーリン」のように“Webに書き留める”ということは、どういうところが違いますか?

手帳は完全に“家の中”で、自分の内面をさらけ出しています。でも、まだ裸にタオルを巻いている程度の、ちょっとだけ裸の状態。うっかり道に落として、拾った人に「中身、見た!?」って聞いて「見た」って言われても「まいったなあ」で済む、みたいな(笑)。

それとは逆で、Webは“人の前”ですから、読む人を意識しますね。どんなにくつろいでいても、どんなにでたらめを言っていても、人が聞いていると思いながら書いています。


── Webの文章は、世界中の人に公開していますもんね。糸井さんはWebに文章を書く時、どういう人が読むというのを意識していますか?

近い人に喋っている、という意識で書いていますね。社内のAさんBさん、家族、友だち……読む人が他人だとは思わないで書いているつもりです。

── まだ自分を知らない人に向けて、知ってもらおうと書いている文章ではない?

自分のことを知らない人用の文章ではないですね。でも、普段だと呼び捨てにしている人のことを「さん」付けで書くことはあるかな。その意味では、知らない人も読みに来ている、ということを忘れてはいないです。「みうらじゅんさん*1」って書いてますからね。普段の呼び方は「みうら」ですから(笑)。

── 「ほぼ日刊イトイ新聞」で毎日書かれている「今日のダーリン」ですが、休みなく続けるモチベーションは何でしょうか。

毎日、うれしくてやっているわけじゃないですから。つらいですよ(笑)。あれがなければ、0時から本を読んでもいいんだし、ビデオを見たり、寝ちゃったりしてもいい。とはいえ、0時前に書くことはほとんどないんですけど……。でも、0時を過ぎて「今日のダーリン」を書いたら、ようやく他のことをしようという気持ちに切り替わるんですよね。

── もう、生活の一部のようになっている。

うん。重いですよね。


── 糸井さんは、他の方が書かれているブログを読むことはありますか?

ブログ、という言葉は意識していないですね。人の書いたものを読む、という気持ちです。誰かが誰かの書いたものを紹介していると、そこをたどって読むこともあります。はてなだと、上田啓太さん(id:premier_amour)のブログ*2ですね。誰かがTwitterで紹介していたのをきっかけで知ったんじゃないかな。記事を1つ読んだら、他のも読みたくなって。Twitterもフォローしています。京都の方なんですよね。

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── そうですね、弊社の京都オフィスにもお越しいただいたことがありました。上田さんのブログ、どういうところが響きましたか?

だって、面白いじゃない! テーマとかはどうでもいいんです。その人らしさが出ているところに興味が湧きました。

── なるほど! 上田さんはもちろん、自分の感じたことをその人なりにつづっているからこそ惹かれる部分があると思います。最後に、好きなことや思ったことを自分なりに書いている人たちに、糸井さんからメッセージをお願いします。

表現しよう、と思わなくてもいいんじゃないかな。書きたいから書いているわけで、誰かに頼まれているわけでもないからね。僕は約束しちゃったから書いているだけなので(笑)。

「何食べようかなあ」というのと同じように「何書こうかなあ」となると思うので、書きたくなかったらやめてもいい。書くと人が自分に注目してくれてうれしいというのであれば、それはそれで理由だから、好きにやっていいと思います。表現しにくい世の中かもしれませんが、趣味で書いているなら、いつやめてもいい。気楽な気持ちで、書きたくなったら書いて、やめたくなったらやめる。どっちを選んでもいいと思います。

── ありがとうございました!


最後に、糸井さんのおすすめの「ほぼ日手帳2018」だという、ザ・ビートルズをテーマにした「IN MY LIFE」を見せてもらいました。こちらの手帳カバーを含めた「ほぼ日手帳2018」の京都での内覧会の様子も、週刊はてなブログで紹介しています。ぜひご覧ください。

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*1:京都生まれのイラストレーター・エッセイスト。一時期、東京糸井重里事務所(現・株式会社 ほぼ日)に出入りしていたことも。「ほぼ日刊イトイ新聞」にもたびたび登場している。

*2:http://diary.uedakeita.net/