東京発のコンテンツは飽和。でも地方は? 小さな会社のオウンドメディアの可能性を運営堂・森野とJADE・伊東が語る

はてなブログBusiness第4弾メインカット

当初は大企業を中心に行われていたコンテンツマーケティングですが、今や多くの企業にとってコンテンツを通じてユーザーとコミュニケーションを取ることは当たり前になりつつあります。その傾向は、新型コロナウイルスの影響によりリアルでの活動が制限される昨今、ますます増加。東京に拠点を置く企業だけでなく、地方に拠点を置く企業も続々とWeb上でのコンテンツ制作に力を入れています。

はてなブログの法人向け新プラン「はてなブログBusiness」のリリースに合わせて『週刊はてなブログ』がお届けする「連続企画:コンテンツと企業 2020」の第3弾となる本稿では、名古屋を中心に地方のウェブ運用を支援されている運営堂の森野誠之さんと、「はてなブログBusiness」のサブディレクトリオプションのコンセプト設計にも携わるJADE社の代表取締役社長・伊東周晃さんが、「地方中小企業のコンテンツマーケティング」について語り合います。

限られた予算を投資するべきは「自社で管理できる場所」

伊東 森野さんは長年、名古屋を中心に企業のWebマーケティングの支援をされています。「お取り寄せ」というキーワードの検索ボリュームが過去5年で最大になるなど、昨今は新型コロナウイルスの影響でインターネットの世界にも変化が生まれているかと思いますが、名古屋の状況はどうですか?

株式会社JADE代表取締役・伊東周晃の写真
伊東周晃(いとう・のりあき):株式会社JADE代表取締役。株式会社ぐるなびにてSEO、データ分析、コンテンツマーケティングなどの領域で執行役員を務め、2020年より現職。ぐるなび時代には『みんなのごはん』などのオウンドメディアを立ち上げたことでも知られる。現在は「日本のインターネットを良くする」ために検索を中心としたWebコンサルティングに取り組む。

森野 やはり飲食店を中心に、リアルで事業を行っている企業への打撃は非常に大きいですよね。ただ、だからこそWebマーケティングの領域は活況です。これまであまりWebの展開に力を入れてこなかった企業も、企業ブログやInstagram、Twitterを始め、さまざまな方法でコンテンツを発信し、顧客となりえるユーザーとの関係強化を図っている印象があります。

運営堂・森野誠之の写真
森野誠之(もりの・せいじ):名古屋を中心に、中小企業向けにWebコンサルティングを行う運営堂代表。Web制作会社数社の営業などを経て、2006年より現職。Googleアナリティクスなどのアクセス解析を活用したサイト・広告改善支援を中心にWeb制作会社と提携し、分析から制作まで一貫したサービスを提供する。Webマーケティングの最新動向を紹介するメルマガ「毎日堂」も人気。

伊東 こうした不測の事態が起きると、改めて事業において一本足打法は危険だと痛感します。情報発信においても多角化を図ることは重要ですよね。

森野 はい。ただ、特に地方の中小企業は、潤沢に予算があるわけではありません。なので、私がおすすめしているのは、一つのコンテンツを多角的に切り出すという視点を持つことです。例えば、YouTubeの動画をつくったのであれば、文字起こしをしてTwitterに投稿してみたり、画像として切り出してInstagramにアップしてみたり。予算をそこまでかけなくても「細かく広く」やることはできます。

また、もっと大きな話として、そもそも予算を投資する先の優先順位を考えることも大切だと思います。例えば、TwitterやInstagramは手軽に始められますが、残念ながら瞬間的に利用するだけで振り返ってみると何も残っていなかったということにもなりやすい。

一方で、独自ドメインの自社サイトにコンテンツを積み上げていくことは、顧客と息の長い関係をつくる「資産」になる可能性があります。その意味で、限られた予算を自社で管理できる場所に優先的に投資をするという選択は考えてみる価値があるのではないでしょうか。

伊東 同感です。それは、つくったコンテンツやそこにいるユーザーとの関係をどうコントロールするか、という話にもつながりますよね。例えば、YouTubeやInstagramなどは、プラットフォームの動向次第で、アカウントが消えたり、BANされたりする可能性が0ではない。また、プラットフォームによっては表現の規制などもあるので、必ずしも自由に発信できるわけではありません。一方で、自社で管理している場所であれば自由に表現ができますし、突然BANされるといった不安とも無縁。プラットフォームに依存しない自社で管理できる場所に投資するという姿勢は大事ですよね。

森野 はい。コンテンツは積み重ねていってこそ大きな価値につながりますからね。

伊東 2019年はオウンドメディアの閉鎖が相次ぎ、コンテンツマーケティングに陰りが見えたというような言説も一部ではありました。しかし、今の状況を改めて見渡すと、コンテンツを通じたユーザーとのコミュニケーションは重要性を増している。例えば、飲食店ではコロナ禍で客足が遠のいているという状況自体を一種のコンテンツとして発信したところ、「応援消費」のような動きも見られたと聞きます。

森野 名古屋でもそういった動きは見られましたが、やはり自分たちでコンテンツをつくることができるのは強い。特に中小企業においては、最終的にプロダクションなどの手を借りず、自分たちだけでさまざまなコンテンツをつくり発信ができる「自走」の状態が理想ですよね。

東京発コンテンツは飽和? 外部目線を取り入れた地方コンテンツに活路

森野 コンテンツの重要性は変わりませんが、一方で多くの企業がコンテンツマーケティングに乗り出し、コンテンツが飽和しつつあるのも事実です。ほかとは異なる、自分たち独自のコンテンツを出していかないとユーザーに見てもらうことはできません。

伊東 確かに平均的なコンテンツをつくっても、もはや埋もれてしまうことは否めません。ただ、一つ思うのは地方という観点で見ると、まだやりようはあるのではないか、ということです。例えば、観光情報については、東京の人が東京目線で書いているような記事は完全に飽和しているといっていいでしょう。しかし、地元目線での観光コンテンツは、まだ足りていない。

例えば、私の出身は奈良県なのですが、奈良と言うと東大寺と鹿をおさえておけばいいみたいなところがあります(笑)。だけど地元目線で本当に届けたい観光資産ってそこじゃないのではないか、と。

森野 確かに、そうしたコンテンツにはまだ余地がありますね。ただ、意外と地元目線というが難しい。というのも、ずっと地元にいる人がコンテンツをつくろうとしても、なかなかその土地の良さに気付けないところがあります。例えば、名古屋にはたくさんの喫茶店がありますが、そうした喫茶店をまとめたガイドブックの著者は意外なほど県外の方が多い。この前も『名古屋カフェ散歩 喫茶ワンダーランド』という本を読んだのですが、地元の人だと逆に行かないようなところが取り上げられていて、ずっと名古屋に住んでいる私にとっても新しい発見がありました。

運営堂・森野誠之の写真2

伊東 なるほど、ずっとその土地にいる人だと逆に気付かない。となると、地方の企業が地元についてコンテンツをつくるとしたら、どのようなことを意識すべきなんでしょうか?

森野 一つは、やはり外部の視点を取り入れることですよね。例えば、名古屋の観光コンテンツをつくるのであれば、三河地方と呼ばれる愛知県の東側にお住まいの方に意見を聞いてみたりとか。もちろん、東京在住のライターさんなどに話を聞いてもいいと思うのですが、そうすると今度は少しこなれすぎたものになってしまったりもするので(笑)。

伊東 確かにコンテンツをつくることに慣れているぶん、型にはまったものになる危険性がある(笑)。やはり、コンテンツをつくる上では「誰を巻き込むか」が重要なんですね。

森野 そうですね。私の知っている企業でも、社歴の浅い人がヒットするコンテンツをつくる例は多いですよ。それはベテランにはない視点から情報を発掘・解釈し、コンテンツ化することができるからでしょうね。前に一度、なぜ東京の観光メディアはあれほどまで高い頻度で記事を更新できるのか考えたことがあったのですが、それはお店の入れ替わりが激しいので、「新しさ」を武器にしたコンテンツをつくることができるからなんですよね。一方で地方は、正直そこまでお店の入れ替わりがない。だからこそ、既存の素材から新たな情報を発掘できる、外部の新鮮な視点は武器になるんです。

広告との違いとは? コンテンツは将来に向けた「積み上げ」

伊東 ここまでコンテンツの話をしてきましたが、いわゆる広告と分別する視点は重要だと感じます。端的に言えば、積み重なるか、積み重ならないか。広告とコンテンツの違いはそこですよね。広告的な発想だと、まずたくさんの人を集め、最終的にその中の数%の人がお金を落としてくれればいいというファネル的な考え方になります。これはもちろん一つのやり方ですが、常に最初の1000人や2000人をファネルの上部に集め続ける必要がある。しかも、広告の出稿を止めれば、そこでユーザーとの関係性も終わってしまいます。

一方でコンテンツマーケティングは、逆ファネルのイメージです。コンテンツを通じてブランド認知やリンクなどの資産が積み上がっていくことを目指します。当然、リンクが集まれば、自然と検索でも有利になりますし、コンテンツを通じてユーザーと信頼関係を結ぶことも期待できる。コンテンツは積み上げなんですよね。

例えば、私が最近良いと思ったのは、京都の観光情報を扱った『ポmagazine』というメディアなんです。2020年6月に開業予定で、コロナの影響でオープンが延期になった「梅小路ポテル京都」というホテルが運営しているんですが、これなどはまさに将来に向けた「仕込み」であり、積み上げそのものですよね。

森野 拝見しましたが、単に観光情報を羅列するだけでなく、「噂」としてコンテンツに仕立てているところもうまいですね。

伊東 そう、かわいいですよね。こうしたメディアは広告の発想ではなかなか継続するのが難しい。何かと広告とコンテンツって同じ枠組みに入れられがちですが、明確に異なるもの。予算の段階から分けた方がいいと思うんです。

株式会社JADE代表取締役・伊東周晃の写真2

森野 そうですね。実際、つくるという工程でも広告とは発想が逆で、最初から1000人に届けようではなくて、コンテンツの場合はまず「この人にだけ届けたい!」という一人を想定することが重要だと思います。一人の周りにどこか共通する要素を持つ10人がいて、その周りにまたどこかが共通する100人がいてという感じで、中心から周縁に向かって薄く広がっていくイメージ。

だから私がよく言うのは、中小企業が何かコンテンツをつくる場合、受け手には顔の見える実際のお客様を想定しようということなんです。どうしてもすぐペルソナという発想になりがちなんですが、それよりも実際のお客さんを想定した方が、制作過程においても社内で認識にブレがなくなる。結果、強いコンテンツが生まれます。

伊東 森野さんが最近注目しているオウンドメディアはありますか?

森野 小田原に本社を構え、ネット通販のシステム開発などを行っているHamee株式会社の『ニューアキンドセンター』というメディアに注目しています。大人気のベーコンを販売する「豚野郎」こと倉持信宏さんなど、EC運営者の方への真面目なインタビュー記事がある一方で、アボカドに醤油を足すとマグロになるという通説を検証するゆるい記事もあったり。

2015年にローンチしていて、更新頻度もそれほど高いわけではないですが、いかにもECに効きそうな記事ばかりではなく、担当者の方の個性がにじみ出るコンテンツが揃っているのは、長期的な読者との関係づくりにも寄与するのではないでしょうか。

伊東 確かに面白い! 仮に予算や人員の関係で高い頻度で出すのが難しくても、続けていけばコンテンツの数は蓄積していきますからね。

積み上げの利点と言えば、Google MapsなどGoogleのサービスに自社の情報を登録し、管理するための「Googleマイビジネス」というサービスがあります。ここ数年、実店舗を構えている小売店等にとって大きな武器になりつつあるサービスなのですが、登録の際に自社の公式サイトへリンクを設定することができて、そのリンク先のコンテンツはGoogleの地図検索での検索順位に影響を与えるんです。

つまり、自社に関連ある話題を意識したコンテンツを積み上げておくことは、幅広い検索キーワードでの地図検索露出を高めることにもつながるんですね。

森野 地方の飲食店などにとっても、地図検索の露出は超重要ですからね。そうした意味でも、普段からコンテンツを積み上げ、自社サイトを充実させておくことは大切だと感じます。

伊東 最後になりますが、今回の対談は「はてなブログBusiness」のリリースを記念したものです。地方のWeb事情に詳しい森野さんの目から見て、新プランはどうでしょうか?

森野 大きなメリットが2つあります。1つ目は単純に安いところ。月に3,000円を切る金額なので負担になりません。地方の観点から言うと、東京の会社が営業してくるサービスって何故か毎月5万円ぐらいするんですよね(笑)。向こうからすれば安いという感覚なのかもしれませんが、地方の中小企業にとって毎月5万は大きな負担になります。

2つ目はSEOに考慮したシステムであるということ。選ぶCMSによっては、Googleの動きによって逐一改修をしないといけなくなりますが、その費用は馬鹿になりません。また、そもそも豊富にエンジニア人材を確保するのが難しい地方において、そこに工数を割いてしまうのも得策ではないでしょう。

コンテンツを積み上げることが重要だと分かっていても、そのコンテンツを入れる場所が重荷になってしまっては本末転倒です。安心して継続的に利用できるシステムは、中小企業にとっては頼りがいがありますね。

伊東 ありがとうございます。手前味噌ですが、弊社が設計にも携わり、昨今のSEOにおいて効果的とされるサブディレクトリへ設置するオプションも用意しています。情報発信にお困りの方は、是非お試しいただきたいですね。

取材・文/山田井ユウキ
撮影・編集/はてな編集部