最近テレビが面白くない? 私たちが楽しみ方を知らないだけかもしれません。
テレビ批評は、はてなブログで根強い人気を誇るテーマの一つ。アニメやドラマからバラエティー番組、さらにはドキュメンタリー番組まで、さまざまなテレビ番組に対する感想や考察が日夜寄せられています。
ただ視聴しているだけでは分からなかった面白さや、おすすめされないと見なかったであろう番組。新しいテレビの楽しみ方をはてなブログの「テレビっ子」たちに教えてもらおう。
そんな思いから、普段テレビ番組に関する熱いエントリーを投稿しているはてなブロガーに、「週刊はてなブログ」でその面白さを語ってもらうという企画が生まれました。題して「大好き!テレビっ子クラブ」。
第2弾では、特撮作品への深い造詣をもってつづられる中身の濃い考察が人気のブログ、「ジゴワットレポート」の結騎 了(id:slinky_dog_s11)さんに寄稿をお願いしました。
(企画:はてなブログ編集部)快盗と警察、2つのヒーローチームが火花を散らす!
スーパー戦隊シリーズ第42作目にあたる『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』が、2018年2月より放送を開始した。
大切なものを取り戻すために盗みを働くルパンレンジャーと、世界の平和を守るために正義を貫くパトレンジャー。ヒーロー同士が争う異色の「VS戦隊」は、制作発表時から大きな話題となり、日曜朝の話題を毎週のようにかっさらっている。
「ヒーロー同士が争うなんて! 正義の味方じゃないの!?」という声も聞こえてきそうだが、実は本作は、長く続くスーパー戦隊シリーズにおいて非常に「らしい」作品であると言える。果たしてそれは、なぜなのか。長年シリーズを愛好してきた私が、その背景や本作の見どころを紹介していきたい。
ヒーロー同士が戦う!? 「VS」構造の歴史
1975年の 『秘密戦隊ゴレンジャー』から続くスーパー戦隊シリーズにおいて、「戦隊同士が争う」という対立構造には、実は20年を超える歴史がある。
1996年にオリジナルビデオで発売された『超力戦隊オーレンジャー オーレVSカクレンジャー』を皮切りに、新旧の戦隊が「VS」シリーズと呼ばれる映像作品で共演するのが恒例行事となっているのだ。1年間慣れ親しんだヒーローと、出てきたばかりのニューヒーローの、夢の競演。多くの視聴者が、その豪華な映像に胸を躍らせてきた。
もちろん、最後には2つの戦隊が協力して巨悪をくじく展開になるのがお決まりだが、「VS」の冠のとおり、ストーリーの序盤では、さまざまな理由でヒーロー同士が戦う様子を描いている。「まさか彼らが争い合うなんて!」。そんな「ヒヤヒヤ」と「興奮」の同居が楽しい、お祭り感たっぷりの内容である。
また、VSシリーズだけでなく、テレビシリーズでも「戦隊同士が争う」という構造に近いパターンは何度か模索されてきた。
2002年に放送された『忍風戦隊ハリケンジャー』には、「電光石火ゴウライジャー」というライバル忍者戦隊がストーリーの序盤に登場。敵組織と手を組み、幾度となく主人公たちを苦しめた。もちろん、最後には彼らも主人公たちと分かり合うのだが、そこに至るまでの紆余曲折に多くの視聴者が熱中した。
2007年の『獣拳戦隊ゲキレンジャー』では、怪人軍団を率いるリーダーとして、「黒獅子リオ」というキャラクターが設定された。主人公たちと拳を交える敵には間違いないのだが、シリーズを通して「彼がどんな苦悩を抱えているのか、なぜ強さを求めるのか」について主人公たちと変わらない密度で描かれたことが話題となった。
複数のヒーローや、それに近い存在が争う構図は、「世界観や価値観のぶつかり合い」という面白さを生む。ヒーローは常に絶対的な正義なのか? 利己的な振る舞いはどんな場合も悪なのか? ぶつかり合った信条が新たな答えやメッセージを示してくれる。
作品を重ねる中で、さまざまな角度からその「面白さ」を模索してきたスーパー戦隊シリーズにとって、「VS」というフォーマットは、実はとても伝統的なものであると言えるのだ。
ついにテレビシリーズで「VS戦隊」が!
さて、話を2018年に戻そう。
2018年2月4日に放送を終了した『宇宙戦隊キュウレンジャー』は、史上初の9人戦隊として話題となった。近年のスーパー戦隊シリーズには、このような「新たな挑戦」の香りを感じることが多い。
その最新作として、戦隊の伝統的なフォーマットを引用しつつ新たなアプローチに挑むという、まさに「温故知新」な『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』が登場した。
満を持して、「VS」の要素がメインストリームに据えられたのだ。これはスーパー戦隊シリーズの歴史において「必然」であると言えるだろう。
2つの戦隊が争う本作の一番の見どころは、3人×2戦隊の対比が光るキャラクター設定にある。
ある日突然「大切な人」を目の前で失ってしまったルパンレンジャーの3人は、「ルパンコレクションというお宝を集めれば大切な人を取り戻せる」との誘いに乗り、たとえ誰かが欠けようとも共通の願いを叶えようとする。そのひたむきな姿勢と影のある背景には、「義賊もの」の魅力がたっぷりと詰まっている。
対するパトレンジャーは、文字通りの警官チーム。「警察戦隊」は「国際特別警察機構戦力部隊」の通称という設定だ。昭和の香りがする堅物のレッドに、まだまだ新米な後輩グリーン、姉御肌でしっかり者のピンクなど、こちらは快盗戦隊に比べ、刑事ドラマ等で確立された王道のキャラクター造形がなされている。
見方によっては、「影を感じさせる21世紀的なキャラクター」VS「王道の20世紀的なキャラクター」になっているが、これは、そのどちらの世紀にもまたがって放送されてきた長寿シリーズだからこその設定なのかもしれない。
争い合う彼らの関係は、いつの間にか、『ルパン三世』におけるルパン三世と銭形警部、『名探偵コナン』における怪盗キッドと江戸川コナンのような、奇妙な信頼関係へと変わっていくのだろう。それを思うと、今からワクワクが止まらない。
物語を彩る主題歌や変身グッズも「VS戦隊」ならでは
本作の主題歌にもぜひ注目してほしい。
ジャズ風のメロディーに男性ボーカルが乗せられた『ルパンレンジャー、ダイヤルを回せ』と、電子音が疾走感を演出する女性ボーカルの『Chase You Up!パトレンジャー』。この2曲を融合させたのが、本作の主題歌『ルパンレンジャーVSパトレンジャー』となっている。
対位法(複数の旋律が独立しながら調和する音楽技法)が用いられた巧妙なメロディーに感動を覚えるとともに、シリーズ1作目の主題歌『進め!ゴレンジャー』と同じ男女デュエットの性格を持ち合わせているのがなんともニクい。まさに「温故知新」である。
ストーリーの部分では、「変身アイテム」が大きな鍵となるだろう。
異なる2つの戦隊が、同じアイテムを使って変身する。どうして両陣営が同じ代物を持っているのか、それぞれ誰から託されたのか。良い意味で「きな臭さ」が漂う設定は、戦隊同士の背景が絡まる濃密なドラマを予感させてくれる。
そんな快盗と警察が、敵組織「異世界犯罪者集団ギャングラー」と毎週のように三つどもえを繰り広げる。意欲的なカメラワークやCG演出も含めて、見慣れた「戦隊」のはずなのに、私自身、こんなに面白くていいのか? というくらい毎週興奮を覚えている。
長年多くのスーパー戦隊を見てきた筆者の「おすすめの作品」は?
スーパー戦隊シリーズのような長寿シリーズを愛好していると、「おすすめの作品は?」と聞かれることが多い。これにはさまざまな答えがあるが、間違いがないのは、常に「最新作」である。誰も先を知らない物語を楽しみ、近年であれば「実況」で盛り上がることもできる。「最新作」が、唯一無二の「旬」なのだ。
シリーズの伝統を踏襲しながら新たなチャレンジに挑む、『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』。
古きをたずねて新しきを知る、そんな本作はまだ始まったばかりである。毎回がクライマックス! 毎週がデラックス! ニューヒーローに盛り上がれる今こそ、ぜひ、多くの人に観てほしい。
著者:結騎 了(id:slinky_dog_s11)
ひとり娘がかわいくて仕方のない父親。ブログ「ジゴワットレポート」を2017年7月に開設。特撮や映画の感想を日々執筆中。得意技は『忍者戦隊カクレンジャー』のケイン・コスギによる味のある日本語のモノマネ。間もなく公開となる『パシフィック・リム』と『アベンジャーズ』の公開日に仕事の休みが取れなかった結果、枕を濡らす日々を送る。
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