※サイン入り書籍のプレゼントキャンペーンは終了しました。たくさんのご応募、ありがとうございました。
詩や小説、作詞、さらにインターネットでも、さまざまな文字表現のジャンルで活躍している最果タヒ(id:m0612)さん。ブログに投稿したエントリーや、雑誌へ寄稿した文章をまとめた初のエッセイ集『きみの言い訳は最高の芸術』(河出書房新社)が刊行されました。新刊について、文章について、ブログについて、最果さんにお話をうかがいました(サイン入りの新刊を記事末でプレゼントします)。
ふと誰かとすれ違えたような感覚になってもらえたら嬉しい
― 初のエッセイ集『きみの言い訳は最高の芸術』刊行おめでとうございます。最果さんの著作には印象的なタイトルが多いのですが、今回の作品もまた「言い訳」と「芸術」というあまり結びつかなそうな言葉が並んでいますね。
生きることは言い訳をしていくことだな、と思います。でも、その「言い訳」こそが最高だな、美しいな、とも思っています。
ひとはきれいな気持ちだとか行動だけではどうしてもやっていけないところがあって、他人には話せないようなどうしようもない感情とかを、ぐっと押し殺して毎日を生きていると思います。でも、私はそういう感情もきれいなのにな、生きているのに、なかったことにしなくちゃいけない感情なんて何一つないんじゃないかな、と思っていました。生きることそのものをもっと大切にして、たとえ理解できないような感情を相手が抱いていたとしても、それを「きみはそうなんだね、私はこうだよ」って言えたらいいのにと思います。
それで、エッセイ集のタイトルを「きみの言い訳は最高の芸術」とすることにしました。このエッセイ集は特殊な立場や経験を描いたものではないのですが、そのぶん生きることそのものを大事にできたらと、ずっと思って作っていました。
― 理解できないということについては、本書に収録された「わからないぐらいがちょうどいい」でも「人が、自分とは全く違う人生を過ごしてきたんだということを、大切にしていたい」と書かれていますね。
今は「共感される」「共感する」ということがとても大切にされていますが、私はあまり「共感される」ことを目的に文章を書きたいとは思っていなくて、お互いが違っていても、自分も生きていて相手も生きているということそれだけが共有できていれば、「私はこうだけど、きみはこうなんだ」と理解することは可能だと思っています。たとえ、共感はできなくても。
なので、このエッセイ集でも、「わかる」と思ってほしくて書いたというよりは、「私は生きているし、君も生きている」ということそのものを言葉で形にできたらいいな、と思って作りました。ふと誰かとすれ違えたような感覚になってもらえたら嬉しいです。
インターネットの言葉に流れる時間と、紙の言葉の時間
― 今までに書いたブログ記事からも厳選して収録したそうですが、どういった観点で記事を選ばれましたか?
紙に掲載される言葉と、ネットに掲載される言葉は、たとえ同じ言葉でも見え方が異なってくると思っています。ネットだとその言葉はたとえ、更新が終了してもなんとなくまだ動いているような、そのうち新しい言葉に塗り替えられるような、そんなどこか曖昧な輪郭を残していて、その曖昧さが読んだ人に刺激を与えたり、違和感を与えたりします。また、読む人にとっては、その言葉に今出会ったのだという、リアルタイム性がとても重要な意味をなします。書いた人が自分と同じ瞬間を生きて、「今」それを書いたということが、言葉の見え方にも大きな影響を与えます。
でも、紙の場合は言葉そのものがはっきりと固定されて形になっています。読む人がいつ読むのかも、ネット以上にコントロールができなくなり、読む人にとっても書いた人がいつそれを書いたのかということはあまり関係がなくなり、いつ自分がその言葉と出会ったのか、ということがとても重要になります。そしてだからこそ、言葉に余韻が残りやすいと思うんです。読み終わった後も、他の情報の濁流に飲まれるのではなくて、コーヒーを入れてみたり、窓の外を見てみたりすることができる。
インターネットで書く間は、ネットという全員が共有している時間の中に言葉を流していく感覚ですが、本の場合は、読んでいるその人の個人的な時間にそっと言葉を流すような、そんな感覚です。今回本に入れる記事は、そうした時間の流れ方ではどう見えるのか、ということを強く意識して選びました。
― 刊行にあたって過去のエントリーを読み返して、自分自身が書いてきた文章にどういった印象をうけましたか?
ブログは一番気楽に書ける場所だと思っているのですが、読み直すと改めて「好き勝手にやっているなあ」と思いました。
― 本書にも収録されている「作りましょうましょうましょう*1」では、「とりあえずは作り始めることにしている。最初の一行を書き始めることにしている」と書かれています。普段どういったタイミング、きっかけで「書き始める」のでしょうか?
「書くぞ!」と思って書き始めると気が張ってうまく書けなくなってしまうので、できるだけフラットな状態で始められる場所を必要としていて、ブログの記事作成画面はそうした場所の一つです。暇だったりするとそこを開いて、なんとなく書き始めて、「これはブログになりそう」と思ったらそのままブログにして書くし、「これは詩だな」と思ったら別のところに移して保存したりもします。
「みんな好きに読めばいいよ」という態度でいられるインターネットの魅力
― 本著は「ブログが何もかもの原点だった私にとっては原点のような本」と書かれていますが、どんな「原点」だったのでしょう?
最初はブログという言葉もなくて、Web日記と呼ばれていた時代だったと思うのですが、当時はインターネットそのものが「わかってほしい」とか「わかってくれない」とか、そういう感覚から切り離されたものに私には見えていました。今と違って、日常を書いて公開するような人なんて世の中にほとんどいなくて、特殊な人が特殊な経験を発信するというのが主流だったからだと思います。
日常での会話だとどうしてもオチを求められたり、理解されないといけなかったりして、それが当時めんどくさくてめんどくさくて仕方なかった私にとって、自分の感情や情報をただひたすら投げ出して、「みんな好きに読めばいいよ」みたいな態度でいることのできるインターネットは魅力的でした。だから、自分も書いてみたいな、と思ったのがきっかけです。
― はてなダイアリーを2006年からご利用いただいていますが、はてなをどういった理由で選んだのですか?
デザインがかなり自由に決められたのが大きな理由だったと思います。ぎっしり文章を載せたかったので、デザインを自由に決められる場所として探していて見つけました。
― 活字の本をいくつも刊行すると、ブログに書く文章が違ってきたりするのでしょうか?
インターネットが先だったせいか、本を出すことでなにかが変わる、という感覚は特にありません。
― ブログ以外にも、インスタグラムに詩を投稿したり*2、詩を書く様子を動画でツイッターに投稿したり*3、インターネットでさまざまな試みをされています。作品を活字ではなくインターネットに発表することは、最果さんにとってどのような意味がありますか?
インターネットは小学生の頃から触れているので、それを使うことにあまり特別な意味はないです。ネットがあるのに、それを使わないほうが不自然かな、と思っています。ネットがあると、思いついたことはなんでもすぐ自分でやって、公開できるので楽しいです。おもしろそうだなと思ったことはやってみることにしています。
― 著書を何冊も出されてなおブログなどインターネットでの活動を続けている理由を教えてください。
言葉を書くのって楽しいです。楽しいことが好きなタイミングで好きなだけできるので、インターネットが好きです。たぶんこれが一番大きな理由だと思います。
― 詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』が映画になります*4。最後に、詩が映画化されることについてお聞かせください。
私の詩は読む人によってかなり見え方が異なってくるものだと思っています。読む人がそれぞれ好きに解釈することで、その人だけの詩が完成されていくような感覚です。ですので映画のお話をいただいた時、その曖昧さが映像によって固定されてしまわないようにお願いしました。それから、監督の石井さんがとても素敵な脚本を作ってくださって、詩の行間を埋めていくというより、詩の周りに新しい世界を作っていくようなそんなすてきな映画になりそうで、今は心配も不安もありません。完成をとても楽しみにしています。
― これからもさまざまなメディアでのご活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。
(メールによるインタビューをはてなブログ編集部が構成した)
(このイメージ写真は京都のカフェにて撮影。モデルは居合わせた大学生のsさん)
最果タヒ(さいはて・たひ)(id:m0612)
詩人・小説家。1986年生まれ。2006年、はてなダイアリーを開設。『第44回現代詩手帖賞』『第13回中原中也賞』『第33回現代詩花椿賞』受賞。詩集に『グッドモーニング』(思潮社)、『空が分裂する』(新潮社)、『死んでしまう系のぼくらに』(リトルモア)、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(リトルモア)。小説に『星か獣になる季節』(筑摩書房)、『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』(講談社)、『渦森今日子は宇宙に期待しない。』(新潮社)、『少女ABCDEFGHIJKLMN』(河出書房新社)がある。
初のエッセイ集『きみの言い訳は最高の芸術』をサイン入でプレゼント
最果タヒさん初のエッセイ集『きみの言い訳は最高の芸術』(河出書房新社)を5名様にプレゼントいたします。応募方法は、この記事をブックマークするだけ。よろしければTwitter連携をオンにしてご応募ください。
応募期間 | 2016年11月2日(水)~2016年11月8日(火) |
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賞品・当選者数 | 最果タヒさんの新刊エッセイ集『きみの言い訳は最高の芸術』をサイン入りで5名様 |
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抽選と発表 | 応募期間終了後に厳正な抽選を行い、当選ユーザー様の登録メールアドレス宛に送付先情報等を確認するメールをお送りします(取得した情報は本賞品送付用途以外には使用いたしません)。なお、送付先は国内に限らせていただきます。 発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます。 |