在華坊さん「ブログも飲み屋も、自分が自由になれるサードプレイス」【私とブログ vol. 1】

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嬉しいことがあったとき、いい音楽や映画に触れたとき、印象的な出来事があったとき、自分の考えを誰かに届けたいとき――あなたが「ブログを書きたい」と思うのは、どんなときですか?

週刊はてなブログでは、みなさんにもっとブログのある生活を楽しんでもらうため、新しいインタビュー企画を開始します。タイトルは「私とブログ」。ブログを始めて嬉しかったこと、苦労したこと、続けられた理由などなど、はてなでブログを書いているユーザーさんの、生の声をお届けします。

第1回でお話を伺うのは、「日毎に敵と懶惰に戦う」の在華坊 (id:zaikabou) さんです。在華坊さんは、2004年からずーっと、はてなのブログサービスを愛用してくださっています。まるで記録のように日々のことをつづりながら、美術・食・建築など、自身が興味あることをコツコツと書き続けて11年。在華坊さんのブログに対する思いや、ブログを長年書き続ける意味などを聞いてみました。

(取材・構成:はてなブログ編集部)

自分のためのオープンな日記から、読み手を意識したブログへ

――在華坊さんは2004年11月にブログを始められたんですよね。ちょうど11年、ここまで続けられた理由を知りたいです。

在華坊 私、出張が多い仕事で。自分がどこに行ったか分からなくなると、経費の精算ができなくて……。

――それでブログを?

在華坊 私にとって、ブログは本当に「日記」なんです。肩肘張らず、自分の行動を記録するために書いていることが多いですね。「今日は朝起きて会社に行って帰ってきました」としか書いてない日もけっこういっぱいありますし。だから続いているのかなと思います。

――自分だけが見える場所じゃなくて、オープンな場所に日記帳を置いているという感覚なのでしょうか。

在華坊 そうですね。オープンなところに置いていますが、基本的に読者は「自分」。後から「あの日何があったか」を思い返すため、読み返すために書いています。私、自分が書いた記事の中で「「無理にアクセスアップを狙わない日記の書き方10ポイント」がすごく好きで。ここにも書いてあるように、分かりやすいトピックで記事を作るより、1日のうちにあったいろんなことを1記事にする日記スタイルでずーっとやってきました。

――なるほど。ちなみに、このインタビューの前に、はてなブックマークがたくさん付いている在華坊さんの記事を調べてみたら、2013年より後の記事に集中して付いていました。ブログ歴が長くて読者もたくさんいらっしゃると思うんですが、いわゆる“ヒットした記事”が出たのは最近なんですね。

在華坊 私の記事のスタイルが好きだと言ってくれる方もいるんですが、やっぱりある程度キャッチーなキーワードがないと読んでもらえないんですよ。いくら自分で読む用とは言っても多少興味は引きたいなあと思って、記事の作り方や読みやすさを意識し始めたら、ブックマークが付くようになりました。

――“ヒットした記事”は、やはりPVも違いますか?

在華坊 違いますね。以前は月約2万で、ここ2年くらいは10万ほどあります。

――狙ったらちゃんと読まれるようになったというのはすごいです! このスタイルは今後も変わらず、ですか?

在華坊 いえ「そういう記事を書いてみようかな」というくらいの気分で始めたので、またいつ元の形式に戻るかわからないですね(笑)。

――なるほど。逆に、気合を入れた記事に反応がなかったことはありますか?

在華坊 あります。でも、私、モチベーションが高まって書いたものは自分に読ませるために書くものが多いので、落ち込んだりはしないですね。「いいものが書けた!」という満足感があります。

――「文章を書く」ことは、昔から好きだったり、得意だったりしたんですか?「毎日日記をつけていた」とか。

在華坊 いや、もうまったく。作文は嫌いな方ではなかったですが、日記は書いても3日坊主でした。「自分が読みたい」のだけれど「自分だけの日記」で書いていると、やっぱり続かない。何かしらの反応があるから、続けられているんだと思います。

――ブログをやめようと思ったことは?

在華坊 ないですね。数年前、仕事で精神的に参ってしまい、ブログに手をかけすぎるのはよくないと思って、数ヶ月書くのをやめた時期があったんです。でも、とある美術館ですごく面白い展覧会を目の当たりにして「これは絶対書きたい!」と思って、再開しました。そのとき、書いても書かなくても精神状態は変わらないということが分かりましたね(笑)。

――「無理にアクセスアップ〜以外」で気に入っている記事はありますか?

在華坊 pha(id:pha)さんの影響を受けて書いた「一人旅では駅前旅館に泊まるのが好きだ」という記事が好きですね。

ブログは「名刺代わり」。蓄積することに意味がある

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――これまでブログを書いてきて、他のユーザーさんとつながる機会もいろいろあったかと思います。

在華坊 初めて「ブログを通じたコミュニケーション」を行ったのは、大きな建築物が好きな人たちのコミュニティ*1でした。例えば最近はダムや団地などが流行っていますが、まだそういうブームもないころに、建築好きな人たちが集まってできたコミュニティで。そこのオフ会に参加したのが最初ですね。

――どんな方たちとつながりがあったんですか?

在華坊 オフ会を通じてさまざまなイベントに参加していく中で、ダムに詳しい人、鉄塔の人、水門の人……いろんな方たちと知り合いました。工場や団地の写真で知られている大山顕さんや、今や「タモリ倶楽部」にも出演している東京スリバチ学会石川初さんとも、そういったつながりで縁があって。イベントのレポートをブログで書くと「この人はちゃんと書いてくれる人なんだ」と信頼してくれるから、だんだんといろんな場所に誘われるようになりました。

最近は、展覧会の感想をよく書いているから、美術館の関係者とのつながりも多くて。コメント欄を通じてコンタクトがあることも多いので、コメント欄は開いておいたほうが面白いと私は思います。

――すごくアクティブですね。

在華坊 自分からガツガツとコミュニケーションを取っているつもりはないんですが、機会を逃さず、イベントに積極的に参加したり、感想を記事にしたりと積み重ねていくと、自然と向こうからアプローチが生まれてくるんです。私自身は、自分が興味のあることを書いているだけなんですが。記事がたくさん“蓄積”していることで信頼されていたり、あらかじめ人柄を感じ取ってもらえているのかな思います。

――「面白いものに出会ったらアウトプットする」という流れが、在華坊さんの中に根付いていそうです。

在華坊 ブログって「蓄積してなんぼ」だと思うんです。ずっと書いていることで自分の人格の変遷が見えてきますし、読者も記事を続けて読むことでぼんやりと人格みたいなものが浮かぶ。あとは長年書いていることで、信頼感を得られたりもします。

昔、メレ子(id:mereco)さんが「ブログは名刺代わり」と言っていたことがあって、その言葉にすごく共感するんです。ブログを続けてきたおかげで、仕事以外で知り合った今の知人や友だちは、ブログが何かしらのきっかけになってつながった人が多いんです。執筆の依頼を受けたり。そういう“リアルな部分”に影響が及んでいると「またちゃんと書こう」と思いますね。

ネットもリアルも“ゆるく”つながっているのがいい

――ところで、id:zaikabouはリアルとは別人格なんでしょうか。

在華坊 いや、一緒ですね。私、8年くらい横浜で1人暮らしをしているんですが、ここ数年、近所の飲み屋によく行くようになったんです。飲み屋でのコミュニティはサードプレイスというか、仕事とも私生活とも少し離れて、自分が自由になれる場所。ブログもそういう空間のひとつだと思うんです。現実から逃げているわけではなくて、自分のバランスを取っていくために確保している場所として、ブログがある。横浜も、小さくなく、とはいえあまり大きすぎず、ちょっとずつゆるくつながっているコミュニティが少しずつ重なりながら存在しているところが好きですね。

――リアルもネットの世界も「心地よい」と感じるコミュニティが一緒なんですね。

在華坊 そうですね。飲み屋で知り合った人がTwitter上でお互いフォローしてた人で、一緒に帰ってみたら私の家から数軒離れた場所に住んでいた、とか(笑)。その人と同じ大学だった人が、私のまた別の知り合いだったり。私の場合は、ネットの世界とリアルの世界が、すごくいいバランスでつながっていますね。「積極的にバズろう」「炎上していこう」というつもりがなくても、いろいろ書いてみたらゆるいつながりができていて。その点は、すごく運がいいんだと思います。

――「在華坊」という名前は非現実的というか、“いかにも”なハンドルネームですが、由来は?

在華坊 学生時代に入っていた落語研究会でもらった名前です。

――もともとはリアルで授かった名前なんですね。大学時代、とくにサークル活動は学問でもないし、実生活とも少し離れているし、飲み屋のコミュニティと似ているような気がします。

在華坊 たしかにそうですね。自分の人格形成において大きく影響を受けたサークルなので、モラトリアム的な部分も含めて思い入れが強いんだと思います。リアルなんですけど、本当のリアルとも違う。ゆるやかにリアルとはつながっているんだけれども、そうでもないっていうちょっとぼんやりした名前ですね。人生の半分は「在華坊」という名前を使っているので、愛着はとてもあります。

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――ブロガーは、アフィリエイトを主としている人は金銭面だったり、バズりたい人はSNSのシェア数だったり、つながりたい人はコメントだったり、いろんな“反応”を糧にしながら書き続けている人が多いと思います。でも、ブログを書いていて何かゴールがあるわけではない。在華坊さんは、ブロガーはどういうふうに成長していくべきだと思いますか?

在華坊 うーん。私は、あんまり成長しなくてもいいと思っています(笑)。でもやっぱり文章を書いている以上は、自分のブログ以外にもなにか文章を書く媒体を持ちたい気持ちはありますね。ブログ以外の場所で自分が必要とされることが、モチベーションにつながると思います。

――「ブログ以外の場所で自分が必要とされる」というのは「ブログは名刺代わり」の話にもつながりますね。最後に、今、インターネットで何かを発信しようと思うと、TwitterやFacebook、写真だったらInstagramがメジャーかと思います。その中で、ブログを選び続ける理由を教えてください。

在華坊 先ほども話した「つながりのほどよいゆるさ」でしょうか。Facebookなどは、常に監視されあっているような気がしますが、ブログは興味があるときに読みに行ったり、コメントを書いたり、ブックマークしたり、そんなにべったりくっつかなくてもいい。自分の記録を蓄積しながら、ある程度ゆるくつながっていられるコミュニティの“元”になるのが、ブログのいいところだと思います。

はてなは、コミュニティを作りやすい雰囲気があるんだと思います。はてなブログでいろいろな“つながり”が話題になることがありますが、そういうのも結局は、私たちが昔やっていたコミュニティの作り方と似ているんじゃないかなと。はてなのサービスをすごくたくさんの人が使うようになっても、なんとなくゆるーいコミュニティが作りやすい雰囲気は残っているんだと思います。そういうところが好きですね。

在華坊 (id:zaikabou)

在華坊

2004年11月に「はてなダイアリー」を開始。2015年10月に「はてなブログ」へ移行。
代表的な記事は「驚愕と茫然の大塚国際美術館」「ホキ美術館はたてもの好きには堪らない美術館だった…」など。