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2020年3月、Web上で自らの意思で死を選んだ友人について綴ったエッセイを公開した声優・作家の浅野真澄/あさのますみ(id:masumi_asano)さん。このほど、その内容を大幅に加筆しまとめた長編エッセイ『逝ってしまった君へ』(小学館)が6月30日に発売されました。
「大切な人の自死」を経て「残された人々の想い」を綴った同作。書籍化にあたり、改めて自身の感情に向き合ったというあさのさんにお話を伺いました。
※取材は新型コロナウイルス感染対策を講じた上で実施しました
「君」への手紙なら素直になれる
――本作では大切な人を突然失った出来事を経た「遺された」側の想いを、故人である「君」への手紙という形で綴られています。この形式をとられたのには、どのような意図があったのでしょうか。
「友達に手紙を書く」ような形式にすれば、素直になれるんじゃないかと思ったんです。やっぱり、自分の中でこの出来事についてなかなかまとまらない気持ちもあって。友達に語りかける文章って自然とやわらかくなるし、自分の本音が整理しきれず分からなくなったとしても、その「分からない」気持ちのまま言葉として残せるような気がして。
著書では私と友人の関係や、友人が自死する前に残していた言葉、音声メモの内容なども包み隠さず書いています。友人のことをありのまま書くんだったら、自分も素直に、丸裸にしないといけないのでは、という気持ちもありました。
センシティブな話題であるからこそ、自己開示しないまま書くのはフェアじゃないというか。私は生まれ育った家庭が貧乏で、そのことはよくラジオとかでもよく話していたんですが(笑)、学生時代に水商売をしていた、など今まで公に話してこなかったことも盛り込んでいます。
――そして、その時期に精神面で支えになったのが、この友人でもあり、はじめての恋人でもあった「君」であると。
そうですね。今まで触れてこなかったことも書かないと、何で彼のことがそんなに大切なのかというのも伝わらないんじゃないかと思って……。自分の過去も赤裸々にしよう、と決めました。彼も彼で、結構複雑な家庭であったことに悩んでいたようで、家庭環境に取り込まれず人生を構築したいとお互い思っていたからこそ、あの頃はいい関係が築けたんじゃないかな、と今では思います。

浅野真澄/あさのますみ……声優、作家。秋田県出身。2007年小学館おひさま大賞で最優秀賞を受賞。それをきっかけに、声優業は「浅野真澄」、文筆業は「あさのますみ」名義で仕事するように。声優としての代表作は『Go!プリンセスプリキュア』キュアマーメイド、『ベイマックス』ゴーゴーなど。作家としての近著は『ねがいごと』(学研)、『アニマルバスとたんじょうび』(ポプラ社)など。
故人を忘れたとしても、全てが消えるわけではない
――著書では、故人に対して強烈な想いを持ちつつも「いつか、君をうまく思い出せなくなる日が来るでしょう」という心情を吐露されているのが印象的でした。改めてこの言葉に込められた意味を教えていただけないでしょうか。
彼が亡くなって、そのことを考えたくなくても勝手に考えちゃう時期が長かったんですけど、やっぱり故人との思い出って少しずつ美化されていくというか、解釈が変わっていくようにも思いました。
特に、ショックな別れ方であればあるほど、死んだことを握りしめたりとか、その人のことを忘れないよう心に刻みつけたりしようとしてしまいがちです。でも、もともとの「その人」から遠ざかっていくような気がして。
なので、あくまで遺された側は自然に過ごし、忘れていくものは忘れていってもいい。その方が、亡くなった人に対して真摯な姿勢のような気がするんじゃないかなと思ったんです。忘れることは罪ではないし、自然なことなんじゃないかなって。それでも、自分の中に残るものが確実にあるはずだから。
――とはいえ、訃報を受けてからすぐの頃は、なかなか気持ちの整理もつけられないように思います。
一人でいるときは、ずっと彼のことを考えてしまいましたね。それでも、仕事には行かないといけない。ただ、仕事があったからこそ自分を保てていたように思います。例えばナレーションの仕事は、どんなことがあっても目の前の原稿に集中しないといけない、と経験から分かっていて。雑念が入った瞬間にうまくいかなくなっちゃうんですよ。
あ、でもラジオのフリートークで楽しい話をしなきゃいけない、みたいなときは少ししんどかったですね。だって、その頃の自分の近況ランキングって、1位から30位くらいまで全部、彼が亡くなったことに関連する出来事ですもん!
――たしかに……。
とはいえ、話すわけにはいかないので、無理やり31位くらいの話題を喋ったり……。でも、31位なんで、かなりどうでもいい話題なんですよね(笑)。
「虫の知らせ」が来ると、どこかで思っていた
――著書の中で、特に印象深い章があれば、教えて下さい。
どのエピソードも自分の中ではなくてはならないんですが、やっぱり一番最初の章ですかね。彼が亡くなったという連絡をもらった瞬間のことを書いているのですが……。とにかく記憶がすごく鮮明で。頭が真っ白になる、というのはこういうことかと。
――連絡が来たのは、あさのさんがホールパイを買って自宅へ帰る途中。あまりにも「日常」の中での知らせでした。
そうなんですよ。子供の頃に見ていた漫画とかアニメとかって、靴紐が切れる、みたいな「虫の知らせ」的な描写がよくあるじゃないですか。だから、どこか頭の中で、本当に大切な人に何かあったとしたら、そういった予兆が自分にもあるはずだ! と思っていたフシがあったんですよね。でも、そんなことはなかった。
――「虫の知らせ」はなかった、と。
はい、来ませんでした。私がうきうきしながらケーキを買っていたときは、もう彼はこの世にはいなかったんだ……と。もうね、「虫の知らせ描写」はやめて、撤廃して! と思っちゃいましたよね。
「横書き」と「縦書き」で、印象が変わることに気付いた
――書籍化にあたって、元々書き溜めていた原稿を大幅に加筆修正したと伺いました。
元々Web用の文章として書き溜めていたものだったのですが、書籍化にあたって横書きから縦書きに変えたんです。すると、全然印象が変わるんだな、というのが印象的でした。
――どういうことでしょう?
横書きだと縦書きよりも文章から受ける印象がやわらかくなる感じがします。それと、改行を多めに入れないと少し圧を感じる。なので、普段からWeb用で文章を書くときは、改行を多く入れるよう意識していたんですよね。
逆に縦書きかつ、紙に出力する場合だと、かちっとした印象を受けて。修正するにあたってはもう少し軽くといいますか、口語を意図的に増やす、といったことなどをしました。
――今回の書籍について、特にどんな方に読んでもらいたいとお考えですか?
大切な人を失った経験じゃなくても、今すごく「悲しい」とか「つらい」とか、そういう気持ちになっている人でしょうか。特に、誰にも話せず一人でぐるぐるしてしまっているとしたら、手にとって欲しいなと思います。
私自身が本当に悲しいことがあったとき、人に言えないタイプで。話そうとするだけでしんどくなるし、話し相手のことを気にする余裕もない。それなら誰にも言わないほうがよかろう、となっちゃうんです。
でも、一人で抱えるのはやっぱりしんどいじゃないですか。なので、この本が何かに悩んでいる人の寄り添いになるといいなと思います。
あとやっぱり、年齢を重ねていくにつれて、身近な人の死ってどんどん自分ごとになっていくし、避けられないこと。そういう経験がもしあったとき、手にとってもらえたらいいなと思います。
――あさのさんの場合は、想いをなかなか「言えない」からこそ「書く」選択をとられたのかもしれないですね。
感情って賞味期限のようなものがあると思うんです。今回の作品も、来年書いていたらきっと違う内容になったんじゃないかな。
先ほども言ったように、人は生きていれば色んなことを忘れていきます。一番苦しかったときに考えていたことを残しておくことで、これから先、その状態から前に進んだとしても、読み返すたびに「あの頃はこう思っていたのか」と振り返られるじゃないですか。
今日考えていることと、明日考えることってやっぱり違うはずです。賞味期限があるものだからこそ、そのときの感情を残しておきたい。そう強く思ったからこそ、今回の作品を書き上げられたんじゃないかなと思います。
撮影:関口佳代
逝ってしまった君へ
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応募要項
応募期間 | 2021年7月2日(金)~2021年7月12日(月)23:59 |
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賞品・当選者数 | 『逝ってしまった君へ』(あさのますみさんサイン入り)3名様 |
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※2021年7月5日(月)11:35頃、記事の一部を修正しました