「最後はいつもaikoに書かされている」テキストサイト育ちの真顔日記・上田啓太さんインタビュー

B'zの稲葉と同居しても自分は歌がうまいと思えるか?」「セブンイレブンを想いながらファミリーマートに抱かれる」など、独特な視点から人気記事を続々生み出しているブログ「真顔日記」。今回は、このブログの著者である上田啓太さんにインタビューしました。ジモコロをはじめ、さまざまな媒体に寄稿されている上田さん。テキストサイト時代の話や、文章の書き方など、さまざまなことについて伺いました。ぜひご一読ください。

(取材・構成:はてなブログ編集部)

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「テキストサイト文化」出身として

ーー上田さんが初めてインターネットに触れたのはいつごろですか?

上田 1999年です。高校1年生でした。自分用のパソコンを手に入れて、すぐに自分のホームページを作ったんです。最初は「今日、高校でこんなことがありました」みたいな、あまり中身のないページだったんですが、高校3年生のときにテキストサイトという文化を知り、それからは自分の文章を読んでもらう場所としてホームページを運営するようになりました。

ーー現在は「テキストサイト」と言われてもピンとこない人も多そうですね。

上田 そうですね。今はネットの中心に画像や動画があると思うんですが、当時は回線も貧弱だったので、テキストサイトがネットの主役だったんです。無名の個人が、いかに面白く日常を文章化するかを競っていました。言い回しを工夫したり、オチをつけたりして、どうでもいい日常をエンターテインメントにしようと。あの文化の影響は今でも大きいです。

ーー現在もネットで活動している方だと、バーグハンバーグバーグの初期メンバーには、テキストサイト出身の方が多いですよね。

上田 そうですね。オモコロの初代編集長のシモダさんや、現編集長の原宿さん。それにバーグの社員ではないですが、ヨッピー(id:yoppymodel)さんもそうです。私はオモコロが会社化する前、2006年から2009年ごろに在籍していたんですが、当時のメンバーが今もあちこちで活躍している様子を見るのは楽しいです。

ーー現在のブログである「真顔日記」を始められたのはいつごろですか?

上田 2010年です。最初は自分でサーバーを借りて、WordPressで運営していたんですが、しばらくして、はてなブログに移転しました。

ーーさまざまなレンタルブログの中から、はてなブログを選んでいただいた理由があればお聞きしたいです。

上田 やっぱり、テキストサイト文化で育った影響が強いと思います。テキストサイトのころは、はてなアンテナで更新をチェックしていたし、はてなダイアリーをサブブログとして使っていたので、はてなに自然と親近感を持ってました。なので、特に迷うことなく、はてなブログを選びましたね。

間口をできるだけ広くしたい

ーー記事を書く上で、文字数は意識されますか?

上田 かなり意識します。「ネットで長文を読むのはだるいな」という感覚が染み付いているので。ただ、自分の書きたいもの自体は、どんどん長くなっているんです。初めてホームページを作ったころは1記事300字で満足していたのが、気付いたら1,000字ほどになり、現在は3,000字〜4,000字になることも増えました。なので、長い文章をいかに最後まで読んでもらうかに腐心している感じです。

ーー文字数以外に、ブログを書く上で気を付けていることはありますか?

上田 「間口をできるだけ広くする」ことは気を付けています。マニアックな題材の場合でも、入口だけは広くしておく。性格的に、自分の知り合いに向けて書くよりも、知らない誰かに向けて書く方が好きなんです。「こないだのアレ見た?」では済まない緊張感が楽しいというか。

なので、自分と全然違う世代・文化の人が面白がってくれてるのを見つけると、テンションが上がります。プリクラをアイコンにしてる十代の子がTwitterで反応してくれたり、Facebookで60代の方から「面白かったです」というメッセージを頂いたときは、ものすごくうれしかったですね。

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ーー「間口を広くする」上で、気を付けていることはありますか?

上田 「何をどれだけ説明するか」のバランスには気を付けています。

ネット空間には大小さまざまなコミュニティーがひしめき合っていて、Twitterを見ていても、自分の全然知らない人が数万、数十万のフォロワーを集めている。違うコミュニティーだと、全然違う話で盛り上がってますよね。だから専門家に向けて書く場合は別として、ネットという場では「周知のように」というスタンスが取れないと思うんです。違うコミュニティーでも共有できそうな「常識」は何だろうと、探りつつ書いていますね。

aikoの記事を書くときも、その辺は意識しています。aikoの存在自体は現代の日本人ならば知っていると思うんですが、曲名や歌詞の一節までは知らない人が多いだろうと。そのあたりを文章内でうまく説明していって、aikoに興味がなかった人でも「最後まで読んでしまう」記事を目指しています。

ーーaikoに関する記事は、本当にたくさん書かれていますよね!

上田 ファン歴はそこまで長くないんですが、この6年で沼に沈むようにどんどんハマっています(笑)。わりと特殊な付き合い方で、ライブに行ったこともなく、テレビやラジオにも触れていません。だから実際のaikoがどんな人なのかは全然知らないんです。とにかく音源だけを徹底的に聴き込んで書いている状態ですね。

aikoのことを書くと指が勝手に動き出して、いつも最後は「aikoに書かされている」という状態になるんですよッ! それで文章もどんどん長くなるんですが、そこはギリギリの正気を保って、「aikoを聴いたことのない人にも伝わるように」という前提だけは崩さないようにしています。

スピード重視のインターネットに、しつこく推敲したものを出したい

ーー1つの記事に、どれくらい時間をかけますか?

上田 結構変な書き方をしているので、正確な時間は自分でも分からないんです。パソコン内のテキストファイルに、いつも断片的な草稿が100本ほどある状態なんですよ。400字だったり、1,000字だったり、あるいはタイトルだけのものまで、1つのファイルに草稿をまとめているんです。それを並行してリライトしながら、完成したものから公開するスタイルです。

ーー100本も! 結構な労力がかかると思うんですが、どういう経緯でそのやり方になったんでしょうか。

上田 昔は書いたその日に文章を公開していたんですが、後で読み返したときに「これ、もっと書けただろう」と感じることが多くなってきたんです。それで「一晩寝かしてから公開」というふうに変えてみたんですが、まだまだ納得がいかない。そうしてどんどん推敲にかかる時間が長くなっていきました。そのころからネットの文化と合わなくなってきて、なんとかしなくてはと。

ーー「ネットの文化と合わない」とは?

上田 ネットは、そこまで推敲にこだわらなくていい文化だと思うんです。完璧な文章を練り上げるよりは更新スピードを重視したほうがいいというか、誤字脱字や文の細部を気にするよりも、ラフな文体で次々と発表できる人のほうが合ってるなあ、と。

ただ、自分はしつこく推敲しないと落ち着かない性格なので、折り合いをつける方法を探しました。それで現在の「断片的な草稿を大量に用意する」という方法にたどり着いたんです。これでなんとか、文章の練り上げと更新スピードのバランスが取れるようになってきました。「スピード重視のインターネットに、しつこく推敲したものを出したい」という気持ちが強いので、このやり方が気に入っているし、やりやすいです。

B'zの稲葉と同居〜」で気付いた記事タイトルの重要性

ーー記事のタイトルは、どの段階で決めていますか?

上田 最初にタイトルがある場合と、原稿ができてから決まる場合と、両方ありますね。広く読まれた「B'zの稲葉と同居しても自分は歌がうまいと思えるか?」は後者でした。公開ボタンを押す直前に、フッとこのタイトルを思いついたんです。それまでは、「同居生活で起こる自信喪失の問題」みたいな、変に硬いタイトルになる予定だったんですよ。

ーーそのタイトルでは、あそこまで拡散されなかったかもしれませんね(笑)。

上田 絶対に拡散されてないです(笑)。この記事のヒットで、タイトルの重要性を意識するようになりました。その後の「スラムダンクの深津をほめるおじさんについて」や「セブンイレブンを想いながらファミリーマートに抱かれる」は、かなり意識して付けています。

テキストサイトのころは記事タイトルなんて付けてなくて、日付だけだったんですよ。ブログが普及してから、タイトルの重要性がどんどん高くなっているんだと思います。

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「いやこれコンビニの話だし、おまえ男だぞ」

ーー「稲葉と同居〜」の記事は、ご自分でも読み返されましたか?

上田 読み返したんですが、「これは文章として破綻している」と思いました(笑)。

もともとは「自分は猫好きだけれど、同居人の猫好きに比べれば全然だ」という話を書くはずだったんです。その例えとして「カラオケ好きの男がB'zの稲葉と同居するようなものだ」と書いた瞬間に脱線して、そのまま本題に戻ってないんですよ。頭の中の稲葉浩志が暴走して、冒頭の猫好きの話がどこかにいったまま記事が終わっている。こんなことでいいのかと(笑)。

ただ、自分のブログの場合、どうも「例え話が暴走すると広く読まれる」という結果にはなってるんですよね。

ーー他にも、例え話が暴走した記事はありますか?

上田 「コンビニに抱かれる」記事もそうかもしれません。

あの記事も、「セブン-イレブンに行きたいのに最寄りのコンビニはファミリーマートだ」という日常雑記を書くつもりが、「自分は好きでもないコンビニに抱かれているんだ」というイメージを導入したことで暴走してしまい、セブン-イレブンを愛しながら妥協してファミリーマートに抱かれている女としての自意識が生まれてしまったんです。しかも最後はファミリーマートにまで捨てられて、妥協の妥協でサンクスと結婚して、もう自分の人生は終わったと思って……。

なのにサンクスが、「君の一番になれなくてもいい。僕は君のためにがんばる」とか言い出したんですよ! この瞬間、自然と涙があふれてきて、「こんなどうしようもない女に、あんたはどうして優しいのよ」と、ぐずぐずに泣きながら書いていました。それをもう一人の自分が上空から見つめて「いやこれコンビニの話だし、おまえ男だぞ」とツッコんでる感じでしたね(笑)。

あの記事は予想外にいい話に着地してしまい、公開するか迷ったんですが、「ここは涙を信じよう」と思ってそのまま出しました。結果的に、自分のブログ史上もっとも読まれた記事になっています。

文章が書けないときは、体を動かすといい

ーー最近はブログだけでなく、さまざまな媒体にも寄稿されています。締め切りに苦労することはありますか?

上田 昔、オモコロで書いていたときに、締め切りがある大変さを知りました。締め切り間際なのにうまくスイッチが入らないことが多く、中途半端な原稿が公開されてしまって、よくヘコんでいました。

自分で納得のいく形に仕上げた原稿の場合は、そこまで他人の評価に動じないんですよ。でも納得していないものを出すと、「つまらん」みたいな一言コメントでも心にグサッとくるんですよね。あのころは、自分に締め切りのある仕事はできない、趣味で書くだけの方がいいかもしれないと思っていました。

ーー今でも、書けないときはありますか?

上田 この数年でいろいろなやり方を試して、だいぶマシにはなりました。中でも「身体を動かすこと」の効用に気付いたことは大きかったです。私は放っておくと全然運動しない人間なんですが、30分ほどウォーキングするだけでもスイッチは入るんだと気付いたんです。文章を書くことは「頭でやること」だと思っていたんですが、意外と肉体の状態が関係しているんだと気付いたことで、ずいぶん変わりました。

調子が悪いときって、少し書いただけで「ダメだ、つまらない」と考えてしまい、手が止まるんですよ。悪い意味での「完璧主義」に妨害されてしまうというか。

なので、「今からゴミみたいな文章を書く!」と宣言して書き始めるテクニックを使っています。いったん極限までハードルを下げてみるんです。「どうだ、これがゴミだ!」と思いながら、何の意味もない文章を1,000字ほど書き続けていると、徐々に意味がつながり始めるんですね。そしたら最初の文は消して、本格的に書き始めるんです。これも、ある意味で運動の効用と言えるかもしれません。「とりあえず指を動かせ」という発想ですね。

この2つのやり方を編み出してからだいぶ楽になったし、編み出せていなかったら今のライター仕事はできてなかったと思います。

寄稿の仕事が増えても、個人ブログを続ける理由

ーー最後の質問です。さまざまな媒体に寄稿する一方で、ご自分のブログの更新も継続しておられます。お忙しい中で、はてなブログにも投稿してくださるモチベーションは何なのでしょう。

上田 自分のブログは、自由に実験できる場として重要なんです。

さまざまな寄稿依頼は、「過去の自分」に対して来るものだと思っています。「あの記事が面白かったので書いてくれないか」というふうに。なので、新しい何かを見つけたいときは、自分のブログでいろいろと掘ってみる。そうした効果があるので、寄稿の仕事が増えてきても、できるだけ個人ブログを続けていきたいと思っているんです。

書いてる途中で「これ絶対バズらないな」と気付くけど、自分では気に入っている記事なんかも気軽に出せますし(笑)。

ーーこれからも楽しみにしています。本日はありがとうございました。

上田啓太(id:premier_amour)

上田啓太

京都在住のブロガー。1984年生まれ。 同居人女性やネコたちとの日々をつづったブログ「真顔日記」が人気。 ジモコロ、ITmediaなどさまざまな媒体でコラム連載中。

ブログ:真顔日記 Twitter:@ueda_keita