恵文社一乗寺店 堀部篤史さんが文章とブログを語る 誰にも頼まれないことを書くにはパッションとモチベーションが重要なんだ

恵文社一乗寺店外観
恵文社一乗寺店堀部篤史店長

京都市左京区に、恵文社一乗寺店という書店があります。その独創的なセレクトは、イギリスの新聞・ガーディアンが発表した「世界の素晴らしい本屋10店(The world's 10 best bookshops)」に、日本で唯一選ばれるほど。地元の人はもちろんのこと、国内外からたくさんの人が訪れています。

同店で2004年から店長を務め、お店作りの中枢を担ってきたのが堀部篤史さん。この10年、店頭に立つ傍ら、公式ブログや雑誌のコラム、書籍などを執筆してきました。文章を売る目利きであり、書くプロでもある堀部さんに、文章やブログについて聞いてみました。

【聞き手:タニグチナオミ(はてなブックマークニュース ライター)】

僕には、書きたいことがないんです

恵文社一乗寺店の本棚
多くの人をとりこにする、恵文社一乗寺店の本棚。取材時のおすすめは「まちづくり」の棚でした

――堀部さんは雑誌媒体や同人誌、新聞などに寄稿していたり、著書も発表されていますよね? 何がきっかけで、書きものの依頼が寄せられるようになったんですか?

堀部 恵文社一乗寺店のオンラインショップを作ったことがきっかけでした。黎明期のころから始めたのですが、当時、ほかの本屋のオンラインショップには書影すら載っていなくて。うちにある本は、ブックデザインも重要な要素のひとつ。必ず書影を撮影、スキャンして載せると決めていました。

 同時に、なぜセレクトしたのかという説明も必要でした。恵文社一乗寺店の店頭では、ポップを付けていないんです。なぜなら、本自体にすごくたくさんの情報があるから。でもオンラインショップだと、書影は閲覧できても、なぜこの本なのか、どういう文脈で紹介しているのかがわからないじゃないですか。出版社が用意する帯の情報ではない、我々ならではの取り上げ方が必要だなと考え、文章を書き始めました。

 続いてオンラインショップやお店の宣伝のために、自社メディアとしてブログを始めて。それが、はてなダイアリーの「店長日記」(現在はプライベートモード)や、「スタッフブログ」(はてなブログへ移行)。そうやって必要にかられて書いているうちに、外部から執筆依頼が来るようになりました。

――そもそも、書くことはお好きですか?

堀部 僕自身は、書きたいことって全然ないんです。テーマはアメリカ文学、他の執筆者はこういう方々、うちはこんな媒体ですと言われて初めて、書く“動機”ができる。「大体の人はこう考えるだろうから、僕は切り口を変えてみよう」と思うようになるんです。原稿の依頼で一番困るのは「何を書いてもいいです」と言われることですね。

いい文章にたくさん触れるしか、文章がうまくなる方法はない

恵文社一乗寺店の店内
たくさんの本が並ぶ広い店内。週末ともなれば、その独特なセレクトに魅せられた人たちでにぎわう

――とてもきれいな文章を書かれますが、もともと作文などが得意だったのですか? 文章がうまくなる方法があったら教えてほしいです。

堀部 語彙力を高めて、たくさんのいい文章に触れる方法でしか、文章はうまくならないと思います。

――では、堀部さんがいいと思う文章はどんなものですか?

堀部 片岡義男さんや植草甚一さんのような個性的な文体が好みです。あとは海外文学の翻訳文体。文法が違う言葉を日本語に落とし込むので、普通の日本人が普段言わない歯の浮くような会話があったりして。

 中でも、柴田元幸さんが訳したスチュアート・ダイベックの『シカゴ育ち』(白水社)が好きです。独特な倒置法や、ウィットに富んだセリフ回しは、自分の文章にも影響しています。

――文章がなかなか書き進められないことはありますか?

堀部 もちろん、あります。内容に困るというよりは、言葉の重複や文章の切り方、「です」や「ます」といった文末のリズムなどでよくつまづきますね。編集者の方との仕事でたくさんの校正を経験し、よく読み返すようになったら、気になるようになってしまって。今も素人ですが、昔は文章がおかしくても、手が止まることはなかったです。

わかりやすい140文字が珍重される時代だからこそ、長文のブログを読みたい

雑貨やCDも扱う店内の様子
恵文社一乗寺店は、本だけでなく雑貨やCDなども扱う

――たしかに、プロの編集者にチェックしてもらうと、文章の悪いところがよく分かります。でも、ブログなど、個人で文章を書くときにプロの視点を持つことって難しいですよね……。

堀部 むしろ、個人的な文章はうまくなくていい。巧妙さより、勢いがある文章のほうがいいと思うんです。誰にも頼まれていないのに文章を書くには、パッションやモチベーションが重要なんだと思います。

――堀部さんがよく読むブログがあったら教えてください。

堀部 内田樹さんの「内田樹の研究室」です。あとは「ハニカム」とか。個人的にSNSを使うことに興味がなくて、長文のブログが好みです。ただ最近のブログは、画像や情報ありきで、長文のものはあまりないですよね。それがブログというメディアの特性になってきているのかな。

 Twitterのような、わかりやすい140文字の言説が珍重される時代ですが、僕はそういうときだからこそ、シンプルでない言説がすごく重要だと思います。長文を書くのであれば、シンプルな答えやフレーズじゃなくて、物語的な文章や、思考の逡巡を提示してもいいんじゃないかなと。

――最後に、人に読まれるブログを書くコツは何だと思いますか?

堀部 もし、僕が個人でブログを書くとすれば、自分の趣味や日々の出来事をフリースタイルで書くより、コンセプトを作って、ノルマを課します。例えば食事を記録するなら、お蕎麦だけのブログにしてみるとか。ブログは、気の向くままに書いても客観性が低いので、ある程度の縛りやルールがある上で、自由奔放に書くのがいいんじゃないかなと思います。

イベントスペース「COTTAGE」の様子
2013年11月にはイベントスペース「COTTAGE」が誕生。料理教室やライブなど、内容はさまざま

堀部篤史さんプロフィール

堀部篤史さん近影

堀部篤史(ほりべ・あつし)

1977年京都市生まれ。立命館大学文学部卒業。学生時代より、編集執筆、イベント運営に携わりながら恵文社一乗寺店スタッフとして勤務。

2004年に店長就任。商品構成からイベント企画、店舗運営までを手掛ける。

著書に『本を開いて、あの頃へ』(mille books)、『本屋の窓からのぞいた「京都」』(毎日コミュニケーションズ)、『街を変える小さな店 京都のはしっこ、個人店に学ぶこれからの商いのかたち。』(京阪神エルマガジン社)など。