国民の祝日である2月11日(火)、NHK NEWS WEBに掲載されたこんな記事が話題になりました(NHKのサイトでは元記事へのリンクがなかったので補っています)。
ネットで話題になっているのは「『了解』は失礼か?」というタイトルのブログ記事で、この記事に反応して「「目上には『了解』ではなく『承知』を使う」は誤用」というタイトルのブログ記事も注目を集めました。
職場の上司や先輩など目上の人に「了解」ということばを使うことが、失礼に当たるかどうかについていろいろな角度から考察したもので、読んだ人たちからは「普通に『了解』って使っていた」「内部の業務連絡ではいいが、外部とのやり取りではだめ」など、自身の経験に基づいた多くの意見が寄せられています。
リンク先の2つの「ブログ記事」はどちらもはてなダイアリーで、その後の議論もはてなブックマークやはてなブログで見ることができます。一連の議論を追ってみましょう。
日曜日に始まった最初の疑問
真鍋宏史 (id:takeda25) さんが、はてなダイアリーに投稿した記事から始まります。
ここでは「『了解』という言葉は失礼だ」という考えが徐々に広がりつつあることを示し、ほかの「○○失礼説」の例を挙げつつ「了解」という言葉がフォーマルな場から消えてしまうことを危惧しています。
まあ、そう言っても「了解=失礼」ミームが広がってしまったらどうしようもないですね。
それでも、このミームがどうしようもなく広がるまでは、ささやかな抵抗として、できる限り「了解しました」等を使っていきたいと思っています。
真鍋さんは、ほかにも「「間髪をいれず」が殺された日」などの日本語に関するエントリーをたくさん書かれています。はてなブックマークの 『アスペ日記』の人気エントリー から話題になった記事を読むことができます。
はてなブックマークのコメントより
真鍋さんのエントリーには、たくさんのコメントやブックマークが付いています。はてなブックマークのコメントからいくつかピックアップしてみましょう。
id:komagata その時日立は「拝承」を使っていた。
id:mujisoshina 「了解しました」が失礼とは思わないけどやや砕けた言い回しに感じるので、正式な文書や客向けのメールでは「承りました」を使う。社内向けや、客相手でも実務的な連絡では「了解しました」も普通に使っている。
id:shimaguniyamato 了解は失礼になっていく過程を体験したので、非常に面倒くさい思いがある。マナー本で儲ける勢力がキャッチーな「こうだと思っていたでしょうだが実はこうだ」というのを無理に作ってる感じがある。
id:hungchang 使い続けてもいいんだけど、馬鹿に馬鹿だと思われるのが癪なんだよな。いい加減目上とか目下とかがなくなればいいのに。
id:tail_y このように言葉が変化する理由として守衛さんの例でわかるように「年上が使う」からでは。その場合多くが目下への言葉となり、そのイメージが付くため失礼語となる。とすれば40年周期ほどの変化は止められないかも
id:nekonyantaro 「了解」は本来上位の権限をもつ者が許可を与える意味。従って上司に使うのはもってのほか、社外の方に使うのも上からの態度。例外は電話や無線で「roger、内容を聞き取りました」という意味に使う場合。
これを深堀りしてみると……
これを追って id:tokoroten999 さんが言葉の意味を調べなおしています。
「目上には「了解」ではなく「承知」を使う」は誤用 - あの頃の僕らは胸を痛めてブギーポップなんて読んでた
ネットのあちこちに、「目上には「了解」ではなく「承知」を使う」と書いてあります(中略)つまり、「承知」は謙譲語なので敬語であるからOKだが、「了解」は敬語でないからNGというものです。
しかし、これはおそらく間違いだろうと思われます。
なぜなら、「承知」は謙譲語ではないからです。
また、id:takehikom さんからは、2005年頃のQ&Aサイトにすでにそういった質問があったという指摘がありました。
NHK NEWS WEBに載った
そして11日に、NHKニュースのサイトに次の記事が掲載されました。
この記事では上記のダイアリーを起点に、NHK放送文化研究所専任研究員の塩田雄大さんや、ジェイック、日本サービスマナー協会への取材を通して、次のような結論を導いています。
- 「了解は目上に使ってはいけない」という考え方は、10年ほど前から台頭してきた
- 「了解」は守備範囲の広く、軽い使い方もできることが災いした
- ビジネスマナー研修では「承知」を使うよう指導している
- 上司や先輩など目上の習慣に合わせると「承知」がより無難である
はてなブックマークのコメントより
この記事にもたくさんのはてなブックマークが集まっています。同じようにコメントをいくつかピックアップしてみます。
id:shimaguniyamato だから、「了解がまずいとすることで商売しているビジネスマナー屋」に聞くなよ。広まった間違った風習を後押しする最悪な記事になってるぞ。そんなだからビジネスの場ではリスク回避で承知つかうだろ。
id:tokoroten999 やっぱ軽い気持ちでブログなんて書くもんじゃないっすね(困惑)/「ビジネスの現場では、上司や先輩が『当たり前だ』と思っている習慣に合わせることが大切」その理由はどうなのよ……
id:griefworker うちの社員同士で「承知しました」「かしこまりました」なんて使ってるところ見たことないんだけど。仮に自分が使われる側だと堅苦しくて壁感じてしまうな。社外の人相手ならまだしも。
id:jt_noSke りょ(そ)うかい
そして再燃
NHKの記事を受けてたくさんのブログエントリーが書かれ、議論が拡散していきます。主だったものをピックアップしてみます。
NHKの「目上の人に「了解」は失礼?」とかいう記事がちょっとどうしようもない内容だった: 不倒城
失礼以前に「了解」と「承知」は意味が違うじゃん? - 最終防衛ライン2
「了解しました」のほうが、スグにやってくれそうな気がする。 - ブログ名(未定)
「承知」は謙譲の意味を持つか否かについて再度調べてみた - あの頃の僕らは胸を痛めてブギーポップなんて読んでた
古来より「承知」には謙譲の意味を有する用例は存在する。しかし「承知」には謙譲の意味を有さない用例も古来より多々あり、「承知」を使えば自動的に謙譲の意を表するわけではない。
「承知」には謙譲の意味を有するのはたしかですが、「承知」が一意的に謙譲の意味を有するわけではない以上、「『了解』はNGで『承知』はOK」というのはやはり.正しいとは言い難いのではないでしょうか。
ということで、id:tokoroten999 さんの2度目のエントリーにあるように「日本語は難しい」ということを示してくれたこの論争はいったん小休止となりました。ビジネスマナーというものがどういう形で形成されていくのかの一端が垣間見えたような気もします。