〔寄稿〕自分のブログを飛び出して記事を書くときに、ブロガーが考えておくべきことと、原稿を依頼されるブログのつくり方(「脱社畜ブログ」日野瑛太郎)

Man with a briefcase
Man with a briefcase by Kamyar Adl, on Flickr

こんにちは、「脱社畜ブログ」の日野瑛太郎(id:dennou_kurage)です。

僕がはてなブログに一番最初に記事を書いたのが2012年の8月なので、ブログをはじめてからそろそろ2年が経とうとしています。2年のうちにいろんなことがありましたが、おかげさまでたくさんの方に読んでいただいて、気がつけばはてなブログ以外の媒体でも情報発信をする機会が増えてきました。

まず、この2年間で書籍を2冊出すことができました。今は3冊目の書籍を準備中です。雑誌にもたまに原稿を書く機会をいただくことがあります。ネットメディアでは、サイボウズ式やマイナビニュース、東洋経済オンラインといったメディアで、ブログとは別に記事を書かせていただいています。

これらの他媒体での執筆は、ブログとは違った楽しさや苦労があります。そこで今日は、「ブログを書くことと、ブログ以外の媒体に書くことの違い」について、僕なりに感じたことなどを書きたいと思います。

今後、はてなブログを出発点として外部の媒体に進出される方はきっと増えていくと思いますので、少しでもそういう方の参考になれば幸いです。

他媒体で書けばブログはもっと成長する

ブログだけでなく他媒体でも書くことの最大の利点は「ブログではリーチできない読者層にリーチできる」ことです。

たとえば、紙媒体であれば「普段はあまりネットを見ないのだけど、本や雑誌は読む」という人たちを新しい読者として取り込むことができます。僕も「本を読んで、それで日野さんのブログを知りました」という声を聞くことがあるのですが、これはつまり書籍がブログへの導線になったということです。こういう人たちは、他媒体で書いていなかったら本来獲得できていなかった読者です。

ネットメディアでも、新しい読者層にリーチできることは同じです。人それぞれ、熱心にチェックしているサイトは違うのが普通なので、外部に出張して記事を書けば本来ブログだけでは獲得できなかった、新しい読者を開拓することができます。

ブログはしばらく継続して書いていると自然と読者層が固定されてきます。検索エンジン経由で少しずつ新規ユーザーは入ってきますが、ボリュームとしては普通そこまで大きくないですし、定着率も決して高くありません。検索エンジンから来るユーザーは、純粋に「知りたいことの答え」を求めてくる場合が多く、「誰が書いた記事か」「その記事が載っているのはどんなブログなのか」は気にしてもらえないことが大半だからです。

一方で、他媒体に書いた記事を経由してやってくる人は、検索エンジン経由で来る人と違って、執筆者やブログ自体にも多少の興味を持ってくれている場合が多いです。内容次第では、固定読者になってくれる可能性が十分にあります。

つまり、他媒体で書くことは、原稿料をもらいながらブログの宣伝をしているようなもの、とも考えることができます。ブログを成長させたいのであれば、他媒体に進出することはとてもよい手段だと言えるでしょう。

他媒体ゆえの「縛り」

他媒体に書く場合には、ブログとは違って「縛り」がいくつか存在します。

自分のブログであれば、基本的には何を書くのも自由です。個人的な日記であろうと、読んだ本の感想であろうと、あるいは他人のブログ記事への反論であろうと、何を書いてもダメだということはありません(犯行予告やデマの流布は除きます)。

一方で、他媒体に書く場合には、なんでも好きなことを書けばいいというわけにはいきません。普通はクライアントから「こんな感じの内容でお願いします」といったテーマが与えられます。このテーマを外すことは許されません。たとえば、僕がいまサイボウズ式でやっている連載のテーマは「チームワーク」です。この媒体で書く記事には、原則としてチームワークを絡めなければいけません。

テーマが狭くなれば狭くなるほど、ネタを継続的に出すのが難しくなってきます。ブログであれば、あるテーマについてネタが尽きたら他のテーマで別の記事を書く……とやっていけばよいのですが、他媒体で書く場合はそういうわけにはいきません。連載が続く限りは、なんとかテーマを外さずに新しい記事をひねり出さなければならないのです。これが時には大きな負担になります。

また、テーマ以外に「品位」による縛りを受ける場合もあります。「こんな記事が載ってしまったら媒体の品位が下がる」というような記事は、掲載を断られてしまいます。どこまでOKか、というのは媒体次第なのですが、予想と違って緩そうに見える媒体が実は厳しかったり、逆に厳しそうに見える媒体が緩かったりすることが結構あるので、どこまでOKかは仕事をする前に最初に確認しておくとよいでしょう。

僕の場合は、「人によって賛否が分かれる内容」をあえて書くこともあるので、「どこまでOKか」は事前によく確認するようにしています。その結果、NGワードなどが設定されることもあります。以前、とあるメディアの寄稿でこのあたりの詰めが甘かったために、原稿をほとんど丸々書きなおしたことが一度だけあります。「丸々書き直し」は時間的にも精神的にも大ダメージなので、このような失敗は避けたいところです。少しでも内容に不安を感じたら、実際に書く前に「こんなテーマで書こうと思ってますが大丈夫ですか?」と担当者に打診することをおすすめします。

他には、「文字数」による縛りもあります。これは紙媒体では特に厳しく、雑誌の寄稿などでは結構シビアに指定されます。ネットメディアの場合は物理的な紙面がないので緩いのですが、それでも「2,000字から3,000字」とか、「2,000字以上」ぐらいの文字数指定はあります。普段ブログに書いている記事と大きく差がある場合は、ブログとはまた違ったペース配分で記事を書かなければなりません。

実は僕も、最初のうちは「文字数」による縛りに右往左往していました。普段、自分のブログの記事は1,200字から1,500字ぐらいの目安で書いているのですが、ネットメディアではそれよりも多めの文字数指定を受けることが少なくありません。普段のペースで何も考えずに書いていると、1,300字ぐらいで話がストンと収束してしまって頭を抱えたことが何度もあります。そうなってしまった時は「具体例」を足すか、あるいは「想定される反対意見とその反論」を追加することでなんとかしています。

「他者の視点」で文章はさらに強くなる

ブログであれば、公開ボタンを押すまでは自分以外には書いたものを誰も読まないのが普通ですが、他媒体で書く場合にはほぼ必ず書いたものに対して事前に「チェック」が入ります。担当者の意見に基づいて、一度書いた原稿を修正することも珍しくはありません。

どの程度の他者の視点が入るかは媒体によって違います。書籍の場合は、担当編集者とガッツリ打ち合わせをしながら進めるのが普通です。他者の視点が入った結果、文章の順序を入れ替えたり、見出しを変更したり、例を追加したりする作業が結構大幅に発生します。書いたものを大部分捨てて、新たに書き直すこともよくあります。

ネットメディアの場合は、スピードの関係もあり書籍ほどガッツリとは修正をしないことのほうが多いです。それでも、記事タイトルや見出しなどはフックのあるものに変更されることが少なくありません。時には補足を書き足すこともあります。

基本的に、「他者の視点」が入ることは文章を強くすることにつながります。原稿をチェックしてくれる担当者は、自分が書いた文章の最初の「読者」です。自分だけで文章を書いていると、文章に入れ込み過ぎてしまって「他人が、はじめてその文章を読んだ時にどう感じるか」という感覚が全然わからなくなってしまいます。そういう客観的な部分を、他者の視点は補ってくれるのです。

もっとも、「他者の視点」が時にはフラストレーションを生むこともないわけではありません。僕はあまり経験がないのですが、執筆者と担当者とで意見が正面衝突してしまったという話もたまに聞くことはあります。これは実際、難しい問題だとは思います。執筆者も担当者も、双方が「いいコンテンツをつくる」という方向で努力した結果発生した衝突であるなら、それはとことん話し合う以外に解決の方法はないのかもしれません。

他媒体での仕事のオファーをもらいやすいブログの書き方

最後に、これは完全におまけですが、他媒体での仕事のオファーをもらいやすいブログの書き方について私見を述べたいと思います。本来ブログは何を書いてもいいものですが、他の媒体から仕事をもらうことを狙うのであれば、その目的にかなったブログの書き方が考えられます。

他媒体の担当者がブロガーに仕事の依頼をする場合は、基本的に「こんな感じの文章を書いて欲しい」というイメージがあるはずです。「あのブロガーがうちに書いてくれたら、きっとこんな感じの記事を書いてくれるだろう」という期待、と言い換えてもいいかもしれません。この期待は、普段のブログで書いている記事の内容や、ブログの文章からにじみ出ているブロガーのキャラクターによって形成されます。端的に言うと、ブログのブランドイメージが大切だということです。

そのためにも、ブログには一貫したテーマが合ったほうがよいと言えるでしょう。たとえば、「脱社畜ブログ」であれば、「仕事・働き方」といったテーマがあります。しかも、ただ「仕事・働き方」について書くのではなく、「脱社畜」という観点からつねに変化球を投げ、他と差別化を図っています。

つまり、「一定の需要が見込めるテーマ」について、「他と差別化できる内容を発信し続ける」ことが重要だということです。たとえブログを毎日更新していたとしても、この観点が抜けているとなかなか他媒体からの仕事はもらえません。「あの人なら、こういう記事を書いてくれそうだな」という期待が形成されないからです。PVはあるのに仕事の依頼が全然来ないという人は、基本的にこの部分に問題があります。

もちろん、ブログをどういうスタンスで書くかは各人の自由です。これはあくまで「他媒体進出をブログを起点として狙う場合の戦略のひとつ」でしかなく、この戦略を採用することが幸せかどうかはまた別問題です。他媒体での仕事なんてどうでもいいよ、という人も当然いるでしょう。ブログは楽しみながら書くものです。楽しくないなら、無理をするのはやめたほうがいいでしょう。

「脱社畜ブログ」にしても、最近は必ずしも前述の戦略どおりには運営していません。テーマに縛られずに好きなことを、好きな時に書くというスタンスへとシフトしてきました。他媒体では「縛り」がある分、自分のブログでは自由にやりたいという気持ちが強くなってきたからです。

他媒体への進出を狙う狙わないに関わらず、みなさんが一番幸せなブログとの付き合い方を見つけられることを祈っています。

日野瑛太郎さん

日野瑛太郎(ひの・えいたろう)
ライター、ブロガー。
1985年生まれ。東京大学卒。東京大学大学院在学中にWebサービスを開発して起業。修了後にいったん就職するが、経営者と従業員の両方を体験したことを活かして「脱社畜ブログ」を開設。現在は、マイナビニュースサイボウズ式東洋経済オンラインなどに連載中。8月中旬に新刊『定時帰宅。~「働きやすさ」を自分でつくる仕事術~』を刊行予定。

脱社畜ブログ

脱社畜の働き方~会社に人生を支配されない34の思考法

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あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。

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