「私とブログ」第3回は、はてなダイアリーのベータテストから、13年にわたってはてなでブログを書いているid:phaさんにお話を伺いました(現在ははてなブログに移行済み)。phaさんはブログをきっかけに「日本一のニート」として注目を集め、これまでに4冊の著書を刊行しています。
「はてながなければ、文章を書いたり、本を出したりしていなかった。はてなに育てられたようなものです」
そういって笑顔で取材に応じてくれたphaさんに、ブログに対する考え方やスタンス、本を出すことになった経緯、ブログでお金を稼ぐこと、これからのインターネットのコミュニティについてなど、さまざまな問いを投げかけてみました。
(取材・構成:はてなブログ編集部)
結局は自分のためにブログを書いている
――phaさんがブログを書き始めたのはいつごろですか?
pha 2002年です。当時はレンタル日記サービスの「メモライズ」で書いていました。それから半年ほど経った2003年1月にはてなダイアリーのベータ版が始まって、それからずっと、はてなで書いています。
――はてなダイアリーのベータ版は最初、利用申し込みがあった100人ほどのユーザーさんにのみ開放されていました。phaさんはそのうちの1人なのですが、なぜベータ版に申し込んだんでしょう?
pha そのころ京都で大学生をしていて、同じ京都にオフィスがあるIT企業ということでもともとはてなの存在は知っていたんです。「はてなアンテナ」も愛用していました。そのはてなが新しいサービスを始める、ということで申し込んで。
当時「キーワードでつながる」機能がとても斬新で、すごく面白い日記サービスが始まろうとしていると思いました。今では人が多くて想像できないかもしれないけれど、当時はユーザーも多くなかったから、本当に「キーワードでつながっている」感じがしました。みんながおすすめのCDを1枚ずつ挙げていく「名盤百選」とか、楽しかったですねえ。
――それから14年、ずっとブログを書いている。なぜ、こんなに長いこと続けられるんでしょうか。
pha ブログが「自分用の記録」だからだと思います。結局は自分のためにブログを書いているのであって、自分とは無関係な記事を書くようになったら、それはもう「ブロガー」だなあと思います。
――phaさんは自分を「ブロガー」だとは思っていないんでしょうか。
pha 他に言葉がないので「ブロガー」ではあるんですが、「ブログ」というよりは自分の「日記」だということを忘れないようにしています。はてなダイアリー時代からの「日本人にはブログより日記」の精神がまだ残っているんだと。だからブログのタイトルも、はてなダイアリーのデフォルトと同じ「phaの日記」のままにしています。
――昨年12月に発売された著書でも、同じようなことを書かれていますね。
ブログタイトルを『phaの日記』としている理由も『これはあくまで僕が個人的に書いている“日記”なので好きなことしか書かないし、だるくなったら更新しないぞ』というスタンスを表している
出典:『しないことリスト』(大和書房)35ページ
pha はい。ただ「日記」とはいえ、知らない人が読んでもある程度伝わるように書いています。
ブログは「こんなことをした」「こんなことを考えた」という記録を残すために書いていますが、一方で考えを整理するために書いているという面もある。頭の中のゴチャゴチャしたものを、ある程度人にも見せられるように整理することで、自分もよく理解できるんです。「他人が見るかもしれない」という視点があったほうが、ちゃんとまとめる気になりますから。外向きと内向きが“半々”くらいの加減が、ちょうどいいなあと思っています。
――今頭の中で考えていることを整理するためにブログを書くというのは、カロリーを消費するというか、体力を使いますよね。必ずしもたくさんの人に届くわけではないですし。
pha そりゃ、せっかく書いた記事だから反応がいっぱいあるとうれしいけど、あまりアクセスばっかり気にして狙いすぎても、外したときにしんどいし、そもそもどれくらいアクセスが集まるかって予想できない。だから「ある程度は力を入れるけど、そんなに読まれなくてもいいや」くらいの気持ちでやっています。たとえあまり読まれなくても、考えが整理できたのであれば、書けた時点で自分のためにはなっていますし。
――読者の視線は気にならないんでしょうか。
pha あんまり。だから続いているんだと思います。「はてなブックマーク」でネガティブなコメントが付いても「伸びたらいいや」くらいの感覚。批判がすごく多かったらこたえるかもしれないけれど、全体の1/5とか1/10くらいの批判であれば、「いろんなことを言う人がいるなあ」という感じであんまり気にしないですね。賛成する人も反対する人もいて、これが世界だなあって。気にする人にはつらい世界かもしれませんが、インターネットって結局、メンタルの強い人が生き残っているのかなと。
――ブログを更新したくなくなることはないですか?
pha そもそも更新が多い方ではないし、やる気が湧かないと書かないので短期的に「だるく」なることはありますが、長期的にはないですね。やっぱり、書くことが好きなんです。文章を組み立てることは、プラモデルを作っているみたいで、楽しみがある。ブログは自分に必要なので、これからも書き続けるとは思います。
ブログでお金を稼ぐよりは、自分が好きなことを書きたい
――今のphaさんの肩書きは「元・日本一のニート」となっていますが、活動のメインは「文筆」になるんでしょうか。
pha うーん、どうなんでしょう。2012年に『ニートの歩き方』を刊行してから、1年に1冊のペースで書いていますが、それが「文筆家」としてずっと続くかと言われると、もう書くことないし無理だろうなあと思います。今でも安定しているわけじゃないし、ずっと「この先どうしよう」って考えていますね。
――phaさんは、なぜ「本」を出せたんだと思いますか。
pha 僕の場合は、2007年に仕事を辞めて、ブログに「ニートになった」ということを書いていたら、妙にヒットし始めてアクセスが増えたんです。日本で「ニート論」が流行ったのは2004年ころで、僕がブログにニートについて書き始めたころには、もうすっかり定着している言葉でした。しかし、世間的にはマイナスに見える言葉を、肯定的に使ったのが新しかったのかもしれません。それに味を占めて「ニート」や「生き方」といった方面を掘り続けていたら、編集者から「本を書いてみませんか」と声が掛かりました。
――「本」の刊行を目標としているブロガーさんのために、phaさんが本を出してみて、感じたことを教えてください。
pha 昔から本を読むことや文章を書くことは好きだったので、声が掛かったときはやっぱりうれしかったですね。本を出すと知名度が上がって、雑誌やウェブメディアから文章を書く仕事が来たりもするし。「ブログを書いている人」だとネットを見ない人にとっては何をやってるか訳が分からない感じだけど、紙の本を1冊でも出せばこういうことをやっているという名刺代わりになるので便利です。あとは、ブログを書くよりは“お金”になる(笑)。とはいえ、そんなに儲かるわけではなくて、1冊出して100万円くらいもらえたらいいほうという感じですね。
――ブログと「本」は、やはり違いますか。
pha 違いますね。本は、ブログと違ってある程度まとまった1冊分の文量と構成を考えつつ書かないといけないので大変ですね。『ニートの歩き方』は、ブログ記事の中からニートに関するエントリーを再録もしたけど、ブログをそのまま書籍化したわけではなく書き下ろしの部分の方が多い感じです。「ニート」や「生き方」以外でも、普段感じたことを書いたエッセイのようなものも本になったらうれしいですが、そういうのはあまり売れないのか今のところそういう話はないですね。
――先日公開していた「冬とカモメとフィッシュマンズ - phaの日記」のような記事ですよね。これ、とっても好きです。はてなブログの編集部でも話題になっていました。
pha ありがとうございます。でもこの記事も、アクセスがよかったわけではないんですよ。好きで書いている記事なので別にいいんですが、やっぱりかけた労力とアクセスは比例しないよなあと思います。インターネットで面白い文章を書いている人はいっぱいいますが、本を出している人はずっと少ないですし、「すごくいいんだけど、お金にならない」ということはたくさんある。本を出したい人は、書籍化しやすいテーマを狙うといいのかもしれないですが、狙いすぎてもしんどくなるので、好きなことを書きつつ、たまに狙った記事も書く、くらいがいいと思いますね。
――phaさんは、ブログを頻繁に更新してアフィリエイト収入を目標とする「ブログに生活の基盤を置く」ということはされないんですね。
pha それをし始めると、僕はブログを書くのが「嫌い」になってしまうと思います。「ブログで◯万稼ぐ」といった目標を立てると、アクセスを狙うことばっかり考えたり、1日に何記事も書いたり、書く内容が偏ったり、仕事のようにブログを書かなければいけなくてうんざりしてしまう。それよりも、自分が好きなことを書いて、たまたまアクセスが集まればいい。仕事として割りきってやるのならアリだと思いますが、僕はそれだと続かないですね。あくまで自分が「好き」でブログをやっているというスタンスは崩さないようにしています。僕もある程度ブログから収入を得ていますが、最近はあまり更新していないですし、月3〜4万くらいで大した額にはならないですね。
インターネットはクローズドな場所ではなくなった でも、まだ面白い
――phaさんのインターネットでの活動や、「ギークハウスプロジェクト」、和歌山県熊野エリアでのフルサトを作る動きなどを見ていると、「つながり」をとても大事にしているように見受けられます。phaさんにとって、コミュニティとは。
pha 僕、インターネットで知り合った人たちと実際に会ってみたくて大阪から東京に上京してきたんですけど、初めて会ったのははてなで知り合った人たちだったんです。「ギークハウス」も、東京にいるプログラマーたちと仲良くなったことをきっかけに始めました。
――インターネットのコミュニティが、リアルにつながったんですね。しかし世間には、ブログやTwitterなど、Webサービスでの“つながり”はリアルより希薄だと感じる人もいます。
pha 僕は全くそう思わないです。僕はずっとインターネットばっかり見ているし、周りもそういう人が多いので、下手にリアルで短時間だけ会う人よりも、しょっちゅう会っている感じがします。 逆に、インターネットを通じてリアルだけでは伝わらないコミュニケーションができたりもする。例えば、ブログにリアルで会う人には言わないような、自分の考えを長文で書くと、それを読んでくれた人と仲良くなるきっかけになったりする。自分と話が合いそうな人たちと効率良く出会えるんです。インターネットで仲良くなったらリアルで会うことも多いから、”ネットだけの付き合い”というわけでもないですし。
――なるほど。最後に、ブログをはじめ、これからのインターネットのコミュニティはどうなると思いますか。
pha インターネットは一部の人たちだけが使っているクローズドな場所ではなくなったけれど、一方でいろんな人が集まっていて、いろんなイベントが起きたり、お金が動いたり、面白い動きもたくさんある。最近は僕のブログの読者も増えて「つながり」という点では薄くなっていますが、これはこれでいいんじゃないかと思っています。これからも、コミュニティが衰退することはなくて、何だかんだでブログを通じて仲良くなったり、オフ会をやったり、どんどん世代交代しながら続いていくんじゃないでしょうか。
pha(ふぁ)(id:pha)
2002年に「はてなダイアリー」を開始。2013年に「はてなブログ」に移行。 代表的な記事は「一人で意味もなくビジネスホテルに泊まるのが好きだ」「知らないと損する職業訓練…」など
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