エンジニア・研究者のまつもとりーさんがブログを長く続けられた「考え方」とは【エンジニアのブログ探訪】

はてなブログで技術に関するブログを書いている方に、“ブログを書き続けること”について教えていただく企画「エンジニアのブログ探訪」。第5回は、"まつもとりー"の愛称で知られる松本亮介さんid:matsumoto_rに登場いただきました。

エンジニアと研究者の2つの顔を持つ松本さんは、技術ブログ「人間とウェブの未来」、研究日誌としての「@matsumotory の #研究日誌 や日々のあれこれ」で、研究の成果から日常のメモまで、幅広い内容を取り上げ、書き続けています。

松本さんに、エンジニア・研究者としてのブログ執筆の姿勢、ネガティブな意見への考え方など、長くブログを続けてきた中で見えてきたことについて伺いました。

※取材はメールインタビューで実施しました

──ブログを始めたきっかけについて教えてください。

大学生の頃に、まずは自分の考えを整理して記録していきたかったから、そしてその上で、今後自分が勉強したことや経験したことを後から読んで振り返ったり、思い出したりしたかったからです。

僕は単語を覚えることや、つながりのない物事を細かく記憶することが苦手だったので、ブログの記事のような形で、自分なりにつながりのあるストーリーとしてまとめると覚えやすかったということがあります。

──ブログにはどのようなことを書いていますか?

日頃やったことを細かく分離してまとめることを意識しています。

最初は自分の技術的スキルが低かったため大した内容になりませんでしたが、やったことのまとまりとストーリーを細かく切り出すことを意識して、それをブログの記事にしていました。技術的なスキルと実績を細かく切り出すスキルが高まるにつれて、面白い記事が書けるようになっていたと思います。

まつもとりーさんの技術ブログ「人間とウェブの未来

新卒の頃に最も大きく影響を受けたのは、id:kazeburoさんのブログ「blog.nomadscafe.jp」です*1。何度も読み込んでいました。そして今ではid:kazeburoさんと同じ会社(編注:さくらインターネット)で一緒に働けていてうれしいです。

──ブログを書き続けてきた中で苦労したことはありますか?

基本的には自分のブログなので、ネタ探しや執筆まで自由に進めて、最終的には誰も読まなくても自分のメモなどになれば良いと思って書いています。そのため、あまり困りませんでした。とにかく書き続けることだけを意識していたと思います。

一方、執筆後はやはりネガティブな意見なども出るわけで、最初はそれが気になっていました。

しかし、記事を読む人全員に賛成されたり好かれたりすることは無理だと思うようになりました。また、ネガティブな意見が技術的な話題だった場合や、今はできないけどできるようになれそうな話であれば、受け入れて「自分の技術力を高めることで見返そう」と思ってきました。そうしているうちに、技術的な話でのネガティブなコメントがつくことはなくなりました。

難しい研究の話などを論文ほど緻密にまとめず簡単に書いてしまうと、その背景や前提などが伝わらず、ちゃんと理解できないケースが増えてきていて、最近では研究とブログとのギャップを感じるようにはなっています。論文ほど緻密に書くと、読み手にも随分とスキルを要求することになってしまいます。ですので、ブログについてはあくまで経験や事例などに関する話を書こうと思っています。

──ブログを書いていて良かったことは何ですか?

エンジニア・研究者としてブログを書く中で自分のやっていることに興味を持ってくれる人が増え、そういう人たちからのフィードバックサイクルを回しながら、自分の技術力を底上げできたところが一番大きいと思います。

それに加えて、自分の技術力が上がれば上がるほど他者への影響力が増したことも、いろいろなコミュニティと関わる機会や、重要なポジションのチャンスをもらえる機会になっていたように感じます。

後は、論文とブログを両輪で回すことによって、人と話をする場合でも、ストーリーを持って言語化したり、それらを細かく分離して説明したりすることで、相手に納得して聞いてもらえるスキルも向上したように思います。

──ブログを書くために工夫していることがあれば教えてください。

自分は研究者でもあり、研究自体はやはりブログでは表現しきれない面がありますので、研究は論文や研究発表でアウトプットしていこうとしています。

技術ブログについては、研究をする中で得られた実装のノウハウやベンチマーク、事業と関わる中で得られた知見などを書いていこうと思っています。

研究日誌の方は、できるだけ毎日自分のやっていることを記録して、後から振り返り、その時の思考を思い出せるようなindexの役割を持たせています。

──執筆時の様子について教えてください。

f:id:hatenablog:20210427171708j:plain
まつもとりーさんのデスク周り

基本的はスタンディングデスクで一気に書いてしまいます。ブログは書こう書こうとして後回しにすると絶対書かないので、簡単な内容でも思い付いた時に書いておきます。書いた後に、はてなブログのアプリを使いながらいろいろな場所で微修正したり、充実させていったりすることが多いです。

また、僕は模型の仕事もやり始めているので、文章を書くのに疲れたら模型を作ったり、模型のスキルを上げる勉強や練習をしたりして、作業の飽きが来ないようにしています。

f:id:hatenablog:20210427171711j:plain
模型制作のためのスペース

──これまでブログを続けられたのはなぜでしょうか?

最初はどうしてもネガティブなコメントや技術的な指摘を受ける怖さみたいものもあったのですが、それ以上に僕自身には自分のスキルや技術を上げていきたい、良いソフトウェアや研究を生み出していきたいという夢がありました。その夢を達成するために、自分のスキルを向上させることでそういう怖さや自信のなさを乗り切る、と自分に言い聞かせながら続けてきました

すると、ある時からどんどんポジティブな意見が増えてきました。ネガティブな意見は、よく見ると大体母数はとても少なくて、限られた人だということも分かってきます。そうなると、ネガティブな意見を見ても、これは単に「その人は僕をあまり好ましく思っていないんだな」と思うようにもなりました。それは仕方ないことですし、自分では制御できない範囲のことです。ポジティブに言ってくれる大多数の方をもっと大切にして、そういう人たちに意義のある発信をしていきたいという気持ちに変わっていったことも大きいです。

自分の影響力が増し、いろいろと自分について知ってもらえる人や関係性も増えていく中で、ポジティブにとらえてくれる人をとにかく大切に、どんどん良い関係を築いていこうと考えてブログを書けるようになったことが一番大きい要素だと思っています。

お話を伺った人:松本亮介さんid:matsumoto_r

松本亮介

京都大学博士(情報学)、さくらインターネット研究所上級研究員、情報処理学会各種委員、ITRC各種委員、松本亮介事務所所長、その他複数社の技術顧問。2018年11月より現職のさくらインターネット研究所で上級研究員を務める。第9回日本OSS奨励賞や2014年度情報処理学会山下記念研究賞など、その他受賞多数。2016年に情報処理学会IPSJ-ONEにおいて時流に乗る日本の若手トップ研究者19名に選出される。

Twitter:@matsumotory
技術ブログ:人間とウェブの未来
ブログ:@matsumotory の #研究日誌 や日々のあれこれ
Webサイト:松本 亮介(まつもと りょうすけ) ・松本亮介の研究・開発業績ページ

◆ エンジニアのブログ探訪

blog.hatenablog.com

blog.hatenablog.com

blog.hatenablog.com

*1:2021年4月現在では https://kazeburo.hatenablog.com/ に移転。