そこで、週刊はてなブログでは「好きなもの・こと」についてつづるはてなブロガーに、その思いを語っていただく連載【わたしの偏愛】を始めます。
第4回となる今回は、「モヤ学ブログ」のモヤ学さん (

はじめまして、モヤ学と申します。
「モヤ学ブログ」という、店内BGMやテレビ番組のBGMなど、身の回りで日々流れている音楽にフォーカスしたブログを書いています。20代後半まではバイトをしながら、売れないインディーズバンドでギターを弾いていました。現在はシステムエンジニアとして真面目に働いています。
「J-POPのインストアレンジ」という固定概念の崩壊
私が店内BGMの面白さを知ったのは、今から6年前。新宿三丁目の喫茶室ルノアールで元バンド仲間から 「SEIYUのBGMがオシャレすぎる」と教えてもらったのがきっかけでした。
スーパーの店内BGMといえば、いわゆる「J-POPのインストダサアレンジ(フュージョンアレンジ)」や「聞き流せるようなピアノジャズ」という先入観があり、話を聞いた時は「オシャレなんて大げさな」と思っていました。でも、彼が
ロジャニコ(ロジャーニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ※1)流してるのがツボ。
ジョニ・ミッチェル※2と言えば『All I Want』とか『Coyote』だけど、『Free Man In Paris』を選ぶあたりがシビれる。
と熱心にプレゼンテーションするので、「スーパーのBGMにロジャニコ!? ジョニ・ミッチェル!?」とがぜん興味が出てきて……。近所のSEIYUに買い物がてら現地調査へ行くことにしたのです。
※1:アメリカ西海岸を中心に活動したグループ。「渋谷系」と呼ばれる日本の音楽ムーヴメントにも大きな影響を与えた。
※2:カナダ出身のシンガー・ソングライター。フォークやジャズ、フュージョンなど、多様な音楽ジャンルをクロスオーバーさせた楽曲で知られる。
聴いて確信した「プロの犯行」
店内には、誰の曲かは分からないけどオシャレな洋楽が流れていました。ジャンルはソフトロック※3かAOR※4だろうか……とにかく「歌入り」だったことに驚きました。調べたらジェイミー・カラム※5というアーティストの曲でした。初耳。
その後もベル・アンド・セバスチャン※6や前出のロジャー・ニコルズなど、ジャンルや曲調もバラバラなのになぜか不思議と一体感のある選曲。これはプロの犯行だと確信しました。
その体験をそのままブログに書いたら反響もそこそこあって。以降、店内BGMの魅力にハマっていきました。
それからというもの、スーパーや飲食店に行くと、何をするよりもまず店内BGMをチェックしてしまう体に。座席も、選べるときはだいたいスピーカーの近くに座ります。
※3:ゆったりとしたテンポと耳に心地よいメロディーが特徴の音楽ジャンルと言われる。代表的なミュージシャンにカーペンターズやイーグルス、ビーチ・ボーイズなどがあるものの、定義は曖昧。
※4:都会的で洗練されたサウンドが特徴の音楽ジャンルを指す言葉。世代や年代によってさまざまな解釈がある。
※5:イギリスのシンガー。ソウルフルな歌声と繊細なピアノプレイが魅力。
※6:イギリス・グラスゴーのギターポップバンド。愛称「ベルセバ」。肩の力が抜けるゆったりとした音楽スタイルで、日本にもファンが多い。
SEIYUとイトーヨーカドーに見る、店内BGMの使い方
では、具体的にどんなBGMが流れているのか、SEIYUとイトーヨーカドーを事例に説明しましょう。
SEIYU
2015年に調査を開始した当初はソフトロックからスウェディッシュポップ※7、ネオアコ※8やフォーク、ジャズまで、ジャンルや年代を問わない選曲でした。
選曲を担当していたのは、あのピーター・バラカンさんがDJを務める音楽専門ラジオ局「InterFM」。季節ごとのテーマやキーワードを元に選曲し、「BGM for SEIYU」というUSENのSEIYU専門チャンネルを使うという“ガチさ”でした。
また、それを私のブログで取り上げたからかどうかは定かではありませんが、後にSEIYUの公式ウェブサイトでも選曲リスト※9が公開されるようになりました。

現在はすべての店舗で「usen for Free Soul」というUSENの既存チャンネルが採用されています。渋谷公園通りの人気カフェを経営する選曲家、橋本徹さん選曲の心地よいソウルミュージックの数々を店内で聴くことができます。
なお、SEIYUに問い合わせたところ、「USENとは別に西友のオリジナルソングを2曲一定の頻度でOA」しているそうです。
※7:スウェーデン発のポップ・ミュージック。1990年代に全世界的なブームとなった。代表的なミュージシャンにカーディガンズなど。
※8:ネオ・アコースティックの略。クリーンなギターサウンドと美しいメロディーが特徴。イギリスを中心としてヨーロッパ各地で1980年代にブームとなった。
※9:InterFMによる選曲は2018年7月に終了し、選曲リストは2021年6月現在公開されていない。
イトーヨーカドー
SEIYUのような歌入りのオシャレ選曲とは別軸で、イトーヨーカドーでは店内BGMに「業務上のメッセージ」を持たせています。
イトーヨーカドーを運営するセブン&アイ・ホールディングスに問い合わせたところ、2021年6月現在は以下のような組み合わせがあるそうです。
- レジが混んでくると、「応援要請」の合図としてビートルズの『Help!』が流れる
- 雨が降ると、従業員に雨を知らせるため、カスケーズの『悲しき雨音』が流れる
- 「店内清掃」の合図として、『ドレミの歌』が流れる
USENの公式サイトによると、店内BGMがアップテンポかスローテンポかでお客さんの移動速度(滞在時間)や平均購入額に違いが出るようです。
また、バラエティー番組『矢作・バカリのソコホル!?〜言われてみれば気になるアレ大調査〜』(朝日放送、2021年5月2日放送分)は、「スーパーがダサいBGMをかけている理由」を調査する中で、USEN社員の「売っているものを安く見せるのもBGMの効果」というコメントを紹介しています。同じ曲でもアレンジが違うと、商品の価格感覚に違いが出るようです。
「J-POPのインストダサアレンジ(フュージョンアレンジ)」にもちゃんとした理由があったのですね。
あの店内BGMを割り出す3つの調査術
ここからは、そんな店内BGMの“調査方法”を解説します。
「Shazam」「SoundHound」などを使った“実地調査”
まず、現地でスマホの音楽検索アプリを起動させます。私がよく使うのは「Shazam」。検索の精度はもちろん、検索結果を表示するまでのレスポンスも良好です。
また、「SoundHound」はハミングや自分の歌声で曲名を検索できるので、音が直接聞き取りづらい場面で使います。
AndroidのスマートフォンであればGoogleの音声検索も使えますが、雑音が入るような状況だとなかなか検索しづらいように感じます。
SNSを駆使した"Web調査”
インターネットを駆使して調査する方法もあります。例えば、Twitterで「◯◯(調べたい店名) BGM」と検索すると、「◯◯でダニー・ハサウェイの『Hey Girl』が流れてた!」「◯◯のBGMは80年代感あった」のようなツイートがいくつかヒットします。
同じ店名が入った上記のようなツイートを集め、そこに書かれている情報から曲のリリース年代やアーティストの出身国、音楽ジャンルのどれかに共通点を見つけます。
例えば、エリック・クラプトンの『Anything for your love』とヨーロッパの『The Final Countdown』が流れているというツイートからは、「80年代洋楽」の共通項が導き出されます(前者は1986年、後者は1989年のリリース)。
また、最近のヒット曲が流れている、というツイートからは、「週間・月間ランキング」や「ヒット」といったキーワードが浮き上がります。
そうした共通点を見つけたら、ツイートの投稿時間を手掛かりに、有線の「NOW PLAYING」というページでその時間に流れていた曲を検索。ひたすら検索。
洋楽の80年代ならB-27(洋楽 80’s Hits)、ソフトロックならC-03(SOFT ROCK)やC-06(Colorful Pop Styling)といったチャンネルが見つかり、その時間帯にその店舗でそのチャンネルが流れていたことが分かります。
ただ、このやり方は有線を採用しているお店でしか使えないのですが……。
お店の人に聞く
最終手段はこれです。
「聞く」といっても、その場で「BGMは◯◯です」と即答してもらえることはほぼなく、大抵が上司の方や他の従業員さんにエスカレーションされます。なので、聞くとすれば、お店が忙しくない時間帯に限っています。
結果的に分からないこともありますが、快く対応していただけたことがほとんどです。ただ、「変なヤツだな」と思われていたことは、インカムでやり取りする際の表情から察しましたが……。
「いやいや、最初から聞けばいいじゃない?」というツッコミはごもっともですが……そういうんじゃないんですよ。
自力で探し出す楽しみというか、無駄な時間が楽しいというか。趣味ってそういうものじゃないですか。
今だから笑える調査時の思い出
こういうアナログな調査方法なので、いろいろな失敗も経験してきました。
Shazamに夢中で……
ある時、Shazamが音声を認識しやすい場所を求めて、店内のスピーカーを探しては立ち止まり、探しては立ち止まり。
ずっと同じ場所にいると迷惑なので、スピーカーの下に移動することを繰り返していたら……。
婦人服の下着売り場コーナーに迷い込み、買い物中のご婦人から白い目で見られてしまいました。
少し気まずくなったので、スマホをおもむろに耳に当てて、「ココにはないみたいよー」的な、妻に買い物を頼まれてました感を出しつつ、その場から退散。
滞在時間を稼ぐために……
小心者なので、何も買わずに店を出る度胸はありません。
初回のSEIYU調査では、調査中に冷凍食品やらお茶やらを買い込んで、結局4,000円以上も使ってしまいました。
最近は無駄な長居は控えています。
AEONへ行くためだけに……
2年前のある日、イオン(AEON)の店内BGMが80年代洋楽だという情報をキャッチ。家から車で10分ほどの距離にある店舗へ行こうと思い立つも、そもそも車を持っていませんでした。
ふと、家の近くに4つくらいカーシェアのステーションがあったのを思い出し、インターネットで入会。
会員カードを受け取るため、その日のうちにステーションへ向かいました。
ただ、そのステーションがイオンよりも遠かったのは恥ずかしくて誰にも言ってません……。
今後調査したい"課題曲”はコレ
GINZA SIX、東京ミッドタウンなど一部の大型商業施設では、選曲家やアーティストによるオリジナルの選曲リストがあります。公式サイトで紹介されていたりもしますが、空間のコンセプトや季節のテーマに沿った、センスあふれる選曲が魅力です。

https://ginza6.tokyo/gsix2020/playlists)
より
気軽に外出できる状況になったら、こうした音楽が流れる様子を体感しに行きたいですね。
また、お店が閉店する時のBGMと言えば、『別れのワルツ』と『蛍の光』が定番ですが、それ以外の曲を採用しているお店はあるんだろうか、そもそもそれ以外の曲って何だろうか、というのが気になっています。
開店時のBGMは業態やお店によっても違いが出そうなので、掘り甲斐のあるテーマだと思っています。
おわりに〜私がブログを書き続ける理由〜
20代のほとんどを音楽に費やし、今も音楽をテーマにブログを書き続けていますが、記事を書くたび、何かしらの「発見」があります。
読者の皆さんからさまざまなフィードバックを受ける中で、「この世の中には知らない音楽や物事がたくさんあるんだなぁ」と気付かされるのです。
店内BGMのネタを書き始めたのも、元バンド仲間からの情報提供がきっかけで店内BGMの奥深さを発見したからでした。ちょうど、気が向いた時に書いていたはてなブログをなんとなく有料プランに切り替えて「音楽ネタで毎日書くぞ!」と意気込むも1カ月ほどでネタ切れし、方向性を模索していたタイミングだったので、砂漠のオアシスにたどり着いた気持ちでした。
ブログはそんな「初めて何かを知った時の感動」を自分用に記録したり、「誰も興味ないかもしれないけど、とにかく誰かに言いたい話」を取り上げたり、というささやかな情報発信欲を満たしてくれるツールの1つとして、今後も愛用したいと思います。
著者:モヤ学(id:nanaironokakehashi)
スーパーやカフェなどの店内BGM、テレビ番組のダジャレBGM、ラジオやSNSの流行曲まで、聞き流している身の回りの音楽をちょっとだけ変な角度から切り取るブログ「モヤ学ブログ」を不定期で更新中。
ブログ:モヤ学ブログ
Twitter:@MOYAGAKU