それぞれのやり方で、読書を楽しむ。書籍にまつわるエントリー

週刊はてなブログを運営する「週刊はてなブログ編集部」と、クライアントのオウンドメディア記事を制作する「はてな編集部」が合同でブログを紹介する連載企画「編集部が気になるブログ」。今回は週刊はてなブログ編集部の大藤が書籍にまつわるブログを紹介します。

書籍についてブログを書こう、と思ったとき、いざパソコンの前に座るとあらすじはこうで、作者はこんな人で、私はこう思って……と書籍の魅力を伝えるために必要な「情報」について深く考え込んでしまって、なかなか書き出せないのです。過ぎゆく時間がプレッシャーに変わって、結局、書きたいことは雲散霧消し、数行書いてやめてしまうことも少なくありません。

一方で自分が書籍に関するエントリーを読むときに書籍にまつわる「情報」だけを求めているかというと、そんなこともないと思います。同じ書籍を読むにしても、読む人はもちろん、自分自身にしたって、ライフステージや、周囲にいる人々、その時々の状況に影響を受け、面白いと思う箇所や、そもそも面白いと思うかどうかだって変わってゆくのです。だからこそ、エントリーのなかで「書籍とその人の瞬間」が感じられるとなんだかとても楽しく、とてもうれしくなってしまいます。

書籍についてほとんど書いていなくたって、書籍の結末がわからなくたって、なんなら読んでいなくたって、その人がその書籍になんらかの形で触れたことで生まれた文章は十分にその人とその書籍について語ってくれるような気がするのです。

「あなたの文章を読むたびに『めまい』がします」

悔やむな。何はともあれ、このメールを衆目にさらしたのが何のためであるか肝に銘じ、意気地を出して、(そんなものがあるならば)心を込めて書くことにしよう。そしてそのために、もう少し自分の「人生」を振り返り、後追いし、まとめてみたい。

ワインディング・ノート5(サリンジャー・田中優子先生・感傷) - ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ

例えば、作家の乗代雄介(id:norishiro7)さんのこのエントリー。
norishiro7.hatenablog.com

当時の乗代さんの担当教授で、のちに法政大学の総長も務めた田中優子先生からもらったメールについて、J・D・サリンジャーの『大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章』 (新潮文庫)に触れながら語られるこのエントリー。個人的なメールについてブログで公開することへの逡巡と「書く」という行為への鬼気迫る思いが滲み出ています。

「どうでもいいけど(あ」

赤葡萄酒とのマリアージュって書いてある、つまりお勧めのチーズ・・・どれも聞いた事ない奴ばっかだ

眺めている本 - pomtaの日記

ohhashi.hatenablog.com

『美しい世界のチーズの教科書』(パイインターナショナル)を「眺めた」id:ohhashi さん。相槌を交えながら、本を眺めて思ったことを書き残しています。「・・・」で表される思考のスキマから、id:ohhashi さんの頭の中をこっそりのぞき込んでしまったようなリアリティを感じられて、思わず口元がほころんでしまいました。

「中国最初のSF小説」は、未完であることにこそ意義がある

この小説がかくも科学とテクノロジーの全能性を説き、文明や社会の優劣すらそれによってはかられるような世界観を提示しているにもかかわらず、その主人公に対しては、いわば個人のあり方として、伝統中国の価値観を保持することを許している——いや、むしろ結果的に許すことになってしまった——という点である

およそありうべき最善でただひとつの結末——『月球植民地小説』について - どらや記

tsubuan1525.hatenablog.com

近年、テッド・チャンによる翻訳や、『三体』の流行で世界的に注目を集めている「中国SF」。どらやき (id:tsubuan1525)さんは「中国人の手によるはじめてのSF小説」だという未完の小説「月球植民地小説」について過去に残した文章をブログに転載しています。冒頭、5年以上の時を経て改めて自分の文章を公開することにした、どらやきさんご自身の振り返りがこのエントリーを読む上での良い補助線となっています。

「明日も労働!」

ハゲのパラドックスというものがある。髪の毛を一本抜いても禿げないのに、それを繰り返しているといつか禿げてしまう

はやめのバビロン - halfsizedfriedrice’s diary

donttrustard30.hatenablog.com

読書と生活をめぐる思索を書き残す id:halfsizedfriedrice さん。『サボる哲学』(NHK出版新書)、ブレイディみかこ著(おそらく『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』(文藝春秋)?)、『テスカトリポカ』(KADOKAWA)と読んだ本と生活を「超紆余曲折」しながら、資本主義に身を投じています。

「ターザンの各種特集なんて、おまえ運動もダイエットもしないじゃん!」

ましてドゥルーズ=ガタリも、そのうち読むかと思ったけど、「そのうち」はこないだろう

人生の見直し。 - 山形浩生の「経済のトリセツ」

cruel.hatenablog.com

読もうと思っていたのに読まなかった本や見ようと思っていたのに見ることのなかったDVDを列挙し、「人生の見直し」をした評論家の山形浩生 (id:wlj-Friday)さん。

読みたかったけど、読めないを棚卸しすることで、人生という有限の時間で自分が何を選ばなかったのか、を見つめ直せるのではないでしょうか。少しこわいけれど、わたしの読みたかったけど、読めないを考えてみたくなります。


読んだり、眺めたり、読まなかったりした書籍とそれをとりまくその人の自身の生活や思索を行き来する、自由な文章は、「その人が生きた瞬間」を感じさせてくれます。

役立つ情報なんてなくても「その時その人が何を見て、何を思ったか」がそのまま書き残された文章からは読書の豊かさが伝わってきます。肩肘張らず、まずは書いてみませんか? ブログはそんなあなたの文章のために開かれた場です。読書や書籍にまつわるブログを書かれた方はぜひブログタグ「#読書」をつけてみてくださいね。

By 大藤由緒
Profile

大藤由緒

週刊はてなブログ編集部3年目。おおふじよしおと読みます。SF小説と京都が大好き。 築100年の京町屋をリノベーション中。インテリアや部屋紹介の記事をついつい読んでしまいます。