今こそ見よう! ウェス・アンダーソン作品。最新作『アステロイド・シティ』まで、商業デビュー以降の監督作11作品の感想を一挙まとめました。

独特なカラフルな色使い、シンメトリーの構図、ちょっと不思議で切ない物語、雑誌・演劇・アニメーションなど、さまざまなメディアを横断した表現……。唯一無二の世界観を作る映画監督、ウェス・アンダーソン。

2023年9月は最新長編作品の『アステロイド・シティ』の日本上映とNetflix配信でロアルド・ ダールの小説を映像化した短編『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』の配信があり、ウェス熱が高まっているファンの方も多いのではないでしょうか?

www.youtube.com

そこで、今回は、はてなブログで書かれたウェス・アンダーソンの監督作(日本国内で上映されたもの)についての記事を、作品ごとにまとめてみました!

『アステロイド・シティ(2023年)』

目覚めるためには眠らなければならない。現実を生きるために虚構がある。虚構と現実が内混ぜになった虚構の世界を眺めながら、人はなぜ創作せずにはいられないのか考え込んだりする。それはきっとウェス・アンダーソンの思う壺で、ある意味、最高傑作じゃない?

【映画】アステロイド・シティ - 銀幕の愉楽

1950年代、アメリカ南西部、架空の街「アステロイド・シティ」での不思議な事件に巻き込まれた人々の群像劇を描いた、という舞台について、その背景や成り立ちを解説するテレビ番組、という入れ子構造が織りなす物語。ウェス・アンダーソン作品の中でも、賛否両論を集める本作について、はてなブログでもさまざまな角度での感想・批評が集まっています。

劇場で見た映画をレビューするブログ「銀幕の愉楽」を運営するりえぞー (id:sal0329)さんは、本作について「もしかしたらウェス・アンダーソン作品で一番好きだったかもしれない」と語っています。その理由はぜひ、記事を読んでお確かめください。

sal0329.hatenablog.com

本作について「難解でついていけず、考察も書けないくらいでしたが記録として残します」と語るのは、ブログ「飲み物と映画」を運営する洗え炊飯器 (id:AraeSuihanki)さんです。本作の飲み合わせはコーラで。というか、どんな映画にもコーラは合うみたいです。

filmdrink.hatenablog.com

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊(2021年)』

映像を端から端まで観たいのに、言葉で語られる内容も多いから字幕も読まなければならない。吹き替えだったら良かったのに、と思う稀な映画。

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 - 8月~12月

フランスを舞台に、編集長が急死し、その遺言によって急きょ廃刊になる架空の雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の最終刊制作の様子を雑誌の記事になぞらえて描いた今作。作品のタイトルはそのまま雑誌の最終刊のタイトルでもあります。今作を2022年のベスト映画に名前を挙げていた方が多く見られました。

今作を見て幼少期に読んだ安野光雅の絵本を想起したという、8月~12月 (id:augtodec)さん。本作の感想とともに、自身の映画の見方への葛藤を語っています。
augtodec.hatenablog.com

ウェス・アンダーソン作品について、「ちょっと映像が凝り過ぎで息苦しさを感じ」ていたという、キンスキー (id:kinski2011)。しかし、今作はその映像スタイルにマッチしていたと語ります。
kinski2011.hatenadiary.org

『犬ヶ島(2018年)』

犬の会話などエンタメとして面白い要素が十分にあった上で、設定もあまりにも理解できないものではなく、むしろ要所要所は抑えたものになっていたので最後まで楽しく観ることができたと思う。

犬ヶ島感想(ネタバレ含む) - 雑文

日本を舞台に描かれたストップモーションアニメーション。犬嫌いの人間により弾圧された犬たちは「ゴミ島」に送られていた。犬嫌い派閥の中でも権力の中心にいた小林市長の息子、小林アタリは愛犬スポッツを探しに「ゴミ島」へと向かい……。第91回アカデミー賞では長編アニメ映画賞と作曲賞の2部門にノミネートされるなど大きく注目を集めた作品です。

今作について、「ストップモーションとは思えない映像の滑らかさに目を見張った」と語るのは、id:mona0906さんです。本作について映画内のギミックへの批判の意見も参照しながら、ご自身がそのギミックをどう捉えたかを語っています。
mona0906.hatenablog.com

また、チャポカ (id:chart_pop_696)さんは、今作について同時期に公開した『ファントム・スレッド』の監督であり、同じアンダーソン姓をはじめ、共通点のあるポール・トーマス・アンダーソンと対比しながら語っています。
www.chart-pop-696.com

『グランド・ブダペスト・ホテル(2014年)』

この作品はあえて「本物から少しずらしたもの」(つまり建物の模型とか、ゼロの制服とか)を作り、それを視聴者が「この模型っぽいものをホテル外観だと思えばいいのね」と了解することで成り立っている。何から何まで。執拗な文字の反復は、その面白さを誇張するためのものでもある。

幻想と作り物「グランドブダペストホテル」感想・考察 - なぜ面白いのか

東欧の架空の国、ズブロフカ共和国にあった高級ホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」。主人公は、このホテルの所有者であり、移民から国一番の富豪になったゼロ・ムスタファ。彼が「グランド・ブダペスト・ホテル」のロビーボーイだった頃に、上司であり、伝説的なホテル・コンシェルジュ、グスタヴとともに巻き込まれた事件の謎とその顛末(てんまつ)を追う、ミステリー・コメディ。第87回アカデミー賞で4部門を受賞し、ゴールデングローブ賞 映画部門 作品賞、ベルリン国際映画祭銀熊賞と数々の賞を受賞した、ウェス・アンダーソンの代表作の一つです。はてなブログにもたくさんの感想・批評が寄せられています!

id:ssayuさんは、多層的な構造を持つ本作について、「この作品は人によって面白ポイントが大きく異なる作品ではないか」と語り、「自分にとっての面白ポイント」をブログに書き残しています。
ssayu.hatenablog.com

可愛らしいイラストともにさまざまな映画について語っているid:toberuniwatoriさん。今作と間違えて別の作品を見てしまった! というエピソードを交えながら、ゼロとグスタヴとの関係を見て「二人の友情が熱かった」と語っています。

toberuniwatori.hatenadiary.jp

『ムーンライズ・キングダム(2012年)』

全体的にはウェス風味で子供たちなりの真剣な恋とドタバタ群像劇がやりたかったんだなあという感じです。

コミカルでライトでアクセント的に脇役が死ぬよね/『ムーンライズ・キングダム』 - 墓場よりお送りいたします

アメリカ・ニューイングランド沖に浮かぶ小さな島が舞台。ボーイスカウトのサマー・キャンプ中の12歳の少年サムは同い年の少女スージーとともに駆け落ちを試みるが……。2人の駆け落ちをめぐるさまざまな事件を描いた群像劇です。余談ではありますが、記事を見ている中で、はてなブログのベータ版リリースが2011年ということもあり、今作以前の作品の感想記事はそれ以降と比較すると少なめな印象でした!

ウェス・アンダーソン作品における脇役の死に着目した、id:wyshaさん。今作におけるあるキャラクターの死を前に「ウェス、脇役の死のことを単にギャグだと思ってる説ある」と考察しています。

wysha.hatenablog.com

『ファンタスティック Mr.FOX(2009年)』

結婚を機に盗みから足を洗ったキツネのMr.FOXが、野生の本能を抑えられず再び盗みを働いてしまったことをきっかけに人間と正面から闘うことになる様を描いたアニメ映画。

どうしたって抗えないもの - 台に乗っても届かない棚

ウェス・アンダーソン初となるアニメーション作品であり、ロアルド・ダールの児童文学『父さんギツネバンザイ』を原作とする今作。盗みで生計を立てていたMr.フォックスですが、家族を持ったことで盗みから足を洗い新聞記者として働いていました。しかし、引っ越しにより盗み熱が再燃してしまい、大事件へとつながっていきます。

今作をきっかけにウェス・アンダーソン作品に興味を持ったid:nekotora77さん。ストップモーションアニメを初めて見たそうで、「系統的に多分近いクレイアニメにはない躍動感があって、テンポ良く観れる感じに仕上がってい」たと書き残しています。
tanawomiteru.hatenablog.com

『ダージリン急行(2007年)』

ゆるい旅のわりに、それなりにアクシデントも起こる(起こす)。本当のインドの旅はもっと大変そうな気がするのだが。こんな旅ならしてみたいかも。

「ダージリン急行」 - 映画日記/記録

長男フランシス、次男ピーター、三男ジャックのホイットマン3兄弟。インド北西部を走るダージリン急行に乗り合い、父親の死をきっかけに壊れてしまった関係の修復を試みるものの、なかなかうまくいかない。ちょっと切ないロード?ムービーです。

あんとわ (id:AntoineDoinel)さんは、2008年(はてなダイアリー時代ですね!)の記事で、今作の魅力について「とんちんかんで仲がいいんだか悪いんだか、妙な3兄弟の些細な理由での小競り合いや、若干誤解してそうなインド観なども地味に面白い」と語っています。公開から1年後、リアルタイムな感想です。

antoine.hatenablog.com

ウェス・アンダーソン作品について「上述のあんかけラーメンに似た立ち位置」だというのは、コザクラ (id:sky_ship)さん。「この監督の作品を味わったことには、ぜひ一度試していただきたいです」とオススメしています。

earth-star.hatenablog.com

『ライフ・アクアティック(2004年)』

それにしても、常時トップレスの若い女性隊員についてのツッコミがないままだったと思うんだけど、あれは一体?

ウェス・アンダーソン監督「ライフ・アクアティック」2962本目 - 映画と人とわたし by エノキダケイコ

海洋探検家兼海洋ドキュメンタリー監督のスティーヴ・ズィスーを主人公にその仲間「チーム・ズィスー」との奇想天外な冒険を描いた作品です。

エノキダケイコ (id:enokidakeiko)さんは、今作中で使われたデヴィッド・ボウイやロックバンドDEVOの楽曲に触れつつ、楽曲と作品との親和性についてつづっています。

movies.enokidakeiko.com

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ(2001年)』

偶然を許さないというか、物事が本当に都合よくいかない。人間が傷を負いながら、何とか前に進もうとして失敗して、最終的にどこにたどり着けるんだろう、っていう人間の未熟さとタフネスさをすごく綺麗に(あるいは泥臭く)描いている作品だと思う。

最近見た映画(ウェス・アンダーソン中心)の感想 - 新薬史観

子どもの頃、天才3人兄弟として名をはせたテネンバウム兄弟。しかし、大人になった彼らはさまざまな問題を抱えていた。そんな中、父親から死期が近いと聞かされ、バラバラだった家族が再び集まるも、そううまくはいかない。急に中の人が出てきて恐縮ですが、個人的に人生ベスト映画の一つです。

ねぎしそ (id:negishiso)さんは短評の中で今作の魅力を書いています。たびたび「正気か?」と思いながらも作品のテンポの良さに流れていったといいます。

negishiso.hatenablog.com

『天才マックスの世界(1998年)』

後の作品に比べるとまだ雑味が多いように感じられる。ただそれが悪いのかと言えばそうではないし、逆に決め切らない部分と決めた部分のあわいがとても楽しめるのだ。実際、ウェス・アンダーソンの中でもこれはかなり好きな映画。

天才マックスの世界 - 呉衣の映画トンネル

アメリカ・ヒューストンに住む15歳のマックスは、頭脳明晰な天才少年。しかし、19ものクラブを掛け持ちしているせいで、留年を繰り返し校長先生から退学を提案されてしまいます。この危機を天才はどう切り抜けるのか!

呉衣悠介 (id:clementiae)さんは今作を見て、ウェス・アンダーソンの商業デビュー2作目とは思えない世界観の完成度に「すごい人は最初からすごいというか、2作目ですでに特徴的なスタイルが完成されつつあり、あとはもう完成度をどれだけ高められるかという段階に達している」と感嘆しています。

clementiae2.hatenadiary.jp

また文筆家のid:yomoyomoさんは、「アカデミー賞にひとつもノミネートされなかった名作映画」として今作の名前も挙げています。

yamdas.hatenablog.com

『アンソニーのハッピー・モーテル(1996年)』

いやしかし、キャラクターはミョーな人間がミョーなことをするウェス・アンダーソンっぽさに溢れているので、だからこそ彼の映画にとってあの構図がなぜ必要なのか……というのがわかるようになっていてメチャクチャ興味深いですね。

アンソニーのハッピー・モーテル - ガチラノ

アメリカ・アリゾナが舞台。精神療養施設から出たばかり、無職のアンソニーは、相棒、ディグナンの強盗計画に巻き込まれてしまいます。しかしディグナンは逮捕されてしまい……。ウェス・アンダーソン商業デビュー作となるクライム・コメディです。

id:hishamaruさんは今作を見て、独特のシンメトリーの構図がなかったことで、「ウェス・アンダーソンなのに! ウェス・アンダーソンっぽくない!」とひっくり返ったそう。ウェス・アンダーソン独自の構図が、作品にどのように寄与しているかについて、気づきを書き残しています。

hishamaru.hatenablog.com


公開初日に『アステロイド・シティ』を見て、「今こそウェス・アンダーソンだ!」と思い立ち、この記事を書き始めたのが9月の頭。しかし、大方の作品を網羅しよう、なんて欲を出したため、ものすごく長くなってしまいしました。ここまでお読みいただいた方、本当にありがとうございます。

はてなブログでは、監督の名前を出さずに書かれる映画の感想記事もたくさんあるのですが、ウェス・アンダーソン作品についての感想記事を見ると、どの作品であっても、大抵「ウェス・アンダーソン」という名前が出てきていたな、というのが印象的でした。その際立った作家性にみんな名前を出してしまうんだな、とあらためて感じるとともに、こういう気づきが得られるのも、横断的にいろいろな人の記事を読む楽しさの一つだな、なんて思ったりもしました。

ぜひ皆さんも、ここからいろいろなブログを読んでみてください。思わぬことを閃くかもしれません。



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By 大藤由緒
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大藤由緒

週刊はてなブログ編集部3年目。おおふじよしおと読みます。SF小説と京都が大好き。 築100年の京町屋をリノベーション中。インテリアや部屋紹介の記事をついつい読んでしまいます。