アウトプットで世界を新しく広げよう。商業メディアと個人ブログから見るエンジニアのアウトプットの面白さとは~CodeZine編集長×はてなCTO対談~

ブログやSNS、そしてイベントでの登壇・発表など、ITエンジニアがその知識や知見をアウトプットできる場所は大きく広がりました。企業が運営するテック系のブログやメディアも増えてきています。

「ITエンジニアのアウトプットを支える立場」として、ソフトウェア開発者向けのWebメディア「CodeZine」(翔泳社)編集長で、はてなブロガーでもある近藤佑子(id:kondoyuko)さんと、はてなブログを運営するはてなのCTO・大坪弘尚(id:motemen)が対談。近藤さんは商業メディアを運営する立場から、はてな大坪はブログサービスを通じてエンジニアのアウトプットを支援する立場から、それぞれの領域でエンジニアがアウトプットを行うことの良さについて語ってもらいました。

聞き手:週刊はてなブログ編集部

* * *

──「CodeZine」の運営方針と、近藤さんの役割を教えてください。

近藤 CodeZineは2005年に翔泳社が創刊した、ソフトウェア開発者向けのWebメディアです。2020年で15周年を迎えまして、その際に媒体のロゴやコンセプトをリニューアルしました。コンセプトは「デベロッパーの成長と課題解決に貢献するメディア」です。

単なる技術情報の発信だけに留まらず、ITエンジニアの皆さまのスキルアップや成長したいという気持ちに応えること、開発現場やチーム内でのさまざまな課題を解決できるようなコンテンツを発信することを目指してアップデートしています。

私は2014年に翔泳社に入社し、ずっと編集者をやっていたのですが、2020年6月の15周年を迎えたタイミングで編集長を引き継ぐこととなりました。

──「CodeZine」の編集長に就任したいきさつについても教えていただけますか?

近藤 会社の人事によるものですが(笑)、自分なりの背景を説明させていただきますね。

2017年くらいから翔泳社が主催するカンファレンス「Developers Summit」(通称「デブサミ」)の企画のメイン担当となり、それから3年くらい担当していました。

最初は、エンジニアが自ら発信する技術ブログやカンファレンスが多数ある中で、引け目を感じていました。自分がエンジニアではないから、関わっているものにどんな価値があるのか、ちょっと不安があったんですね。

ただ、3年デブサミを運営してきた中で、エンジニアではない立場でカンファレンスを作るというところに可能性があると感じました。このあたりは、「DevRel/Japan Conference 2019」というイベントでもお話ししたのですが、編集者だからこそイベントのテーマにこだわったり、自分だけで作れないからこそ、社内外の多くの方のご協力を得ながら企画し、広く届けることができる、そう感じたんです。

さらに、2019年4月に開催された技術系同人誌即売会「技術書典6」に個人で出展してみたら、すごく楽しかった。普段は編集者として執筆してもらう側ですが、あえて執筆者の立場になって、編集者と執筆者を行き来してみたんです。そのことを、阿波踊りの一節「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」から取って「踊る編集者」と名乗っているのですが(笑)。

翔泳社 CodeZine編集長 近藤佑子さん
翔泳社 CodeZine編集長 近藤佑子さん

近藤 自分なりのアウトプットは以前からしていたのですが、2019年は特に、技術同人誌の執筆、10回以上の登壇、クラウドベンダーの資格取得などあれこれやっている中で、視座が上がってきました。

自分はエンジニアではないけれども、だからこそエンジニアとの間に出版社や編集者として介在することによって、よりエンジニアのアウトプットを遠くへ届けたり、最大化したりできるんじゃないかと考えました。

視座が上がったことを社内で話したこと、「若手に新しいチャレンジをさせてみよう」という会社の方針などが重なって、編集長就任という形になったんじゃないかと思っています。

──次ははてなCTOの大坪に聞きます。普段どんなことに取り組んでいるのか教えてください。

大坪 もともとチーフエンジニアという役割でしたが、4年ほど前にCTOになりました。はてなのエンジニア組織の取りまとめをする立場です。エンジニアの生産性を高めたり、楽しく仕事ができたりするような仕組みや取り組みを推し進めていっています。

チーフエンジニアという立場でエンジニア組織を見る役割をしていた頃に比べて、エンジニアの人数は2倍以上になっています。もう少しスケールするような組織作りをしなければいけないし、まさにそれをしようとしているところです。他には、採用や評価などのマネージャー業をしています。

その中でエンジニア組織を成長させるという視点、はてなという会社のブランディングという観点の両面から、組織全体で「エンジニアがアウトプットすること」を推奨しています

ITエンジニアのアウトプットの広がりと商業メディアの関係性

──近藤さんにははてなブログ タグキャンペーンで寄稿していただきました。その中で「2018年頃から、私の観測範囲内で、ITエンジニアの『アウトプット』に対しての流れが変わってきたように感じます」と書かれています。具体的にどのような変化を感じているか、お教えいただけますでしょうか。

kondoyuko.hatenablog.com

近藤 全体的な流れと同じかどうかは分からないのですが、アウトプットの裾野が広がってきたように感じています

従来は著名なITエンジニア、インターネットに親和性がある人、ブロガー気質な感じの方がアウトプットするものを読むという構図があったように思います。最近では、「技術をこれから学ぶとしたらTwitterアカウントを作ってアウトプットしよう」「技術同人誌を書こう」など、初学者に向けても、はじめからアウトプット思考でエンパワーメントするような声をよく聞きます。

また、非エンジニア向けの勉強会も増えてきていて、私自身もコミュニティへの参加が結構しやすくなったように感じています。IT業界にいるITエンジニア以外の人や初心者なども含め、「学びの手段としてアウトプットがいい」というように広がってきたと感じたのが、2018年頃から今に至るまでの印象ですね。

大坪 はてなのエンジニア有志も2019年の「技術書典9」に参加しました。アウトプットの裾野が広がってきたというのは、僕の体感としてもマッチしています。

──個人のアウトプットが技術書典などを含め拡大していく中で、商業メディアの役割を近藤さんはどのように考えていますか。

近藤 情報発信の目標には、もっといろいろな目標があってもいいと思っているんです。

自分のアウトプットが認められることの目標に、「書籍を執筆する」「デブサミのようなカンファレンスに招待されて登壇する」などがあって、そういう目標の1つに商業メディアがあると考えています。目標としての価値がある場所で居続けられるように頑張りたいと思いました。

商業メディアには、課題を解決し、世の中を良くしていくための影響範囲が広いプラットフォームとしての可能性はあると思っています。書籍をイメージすると分かりやすいと思うのですが、人によって編集されて、会社の手が入り、商業出版されることによって、全国の書店の店頭で手に取ってもらえる。幅広い方にリーチできる。

ありがたいことにCodeZineも検索でたどり着いてくださる方が多いので、より幅広く「エンジニアが現場で困った時の助け」になるのではないかと思います。そのポテンシャルを生かしてよりよいメディアにしていきたいなと思っているところです。

大坪 商業メディアでは「ここに載っているならきちんとした内容である」というような、一種のオーソリティがあることが重要だと思っています。

読まれるためにパッケージ化されているというのが、個人のメディアとだいぶ違うところだと思うんですよね。インターネットでは誰でも記事が書ける一方、自分にマッチする内容もマッチしない内容も存在すると思うんですが、そこがまずフィルタされているというのは重要ですね。

近藤 個人のアウトプットの裾野が広がるのはいいことなのですが、情報がたくさん増え過ぎて、初学者にとって分かりにくい状態ではないかと考えています。

商業メディアとして読者像を考えた時に、課題にフィットさせるための記事を届けます。その記事内容が、読者の持つ知識との差を見るためのガイドになり得るんじゃないかと思いました。

初学者以外でも、デブサミに参加された方から「自分と世間との差分(diff)を知るための場所として、デブサミが毎回勉強になっています」というフィードバックをいただいています。

──「CodeZineで書いているから信頼がおける」というようなオーソリティはありそうですね。CodeZineの執筆者はどのように探しているのでしょうか。

近藤 いろいろなつながりをきっかけに連載していただくことが多いですね。勉強会で知り合ったり、「CodeZineに書いてみたい」と言ってくださった方を知り合いを通じて紹介していただいたり。CodeZineに書いてみたいと思ってくださるのはうれしいです。

他には、はてなブックマークを拝見して、ブログで反響が大きそうな記事を見つけ、それが単体の記事であれば「これを連載にしてみませんか?」というご相談をするケースもあります。だいたい良いレスポンスをいただいて、記事化する場合が多いですね。

大坪 1つの記事を掘り下げるのはいいですね。あまり個人のブログでは出てこない発想のような気がします。1回書いたらそれで出来上がりだと思いがちので、そこで「あなたの記事にはもっと価値がある」と第三者の視点で言ってもらえるのはかなり励みになるし、執筆のモチベーションも上がるのではと思います。

はてなが技術者コミュニティへアウトプットを促す背景とは

──はてなブログでは、OSSコミュニティの活動支援を目的とした「はてなブログ OSSコミュニティ支援プログラム」、法人が自社の技術的な取り組みや成果、知見等を発信する「はてなブログ for DevBlog プラン」を新設しました。技術者コミュニティに向けてアウトプットを促す背景を教えてください。

大坪 はてなのスタッフは素朴に「インターネットを良くしたい」と思っていて、それがいろいろなことの原動力になっているように感じます。

会社には「はてなバリューズ」というものがあるんですが、その最後に「インターネットが大好き」という言葉があって、それを体現している会社です。

はてなとOSS、コミュニティという観点でお話しすると、はてなが社員数名だった頃から、創業者の近藤淳也(id:jkondo)がPerlのコミュニティでさまざまな方と出会うなど、OSSやコミュニティとのつながりが多かったんです。

会社としてOSSやコミュニティに還元する方法にはいろいろあります。そこで自分たちが一番得意な方法で何ができるか考えた時に、自分たちが作り、かつ自分たちが使っているブログというものを、もっと多くの人に広く使ってもらおうという意図が一番大きいです。

はてなCTO 大坪弘尚
はてなCTO 大坪弘尚

近藤 支援プログラムというのは有償プラン(はてなブログPro)が無料で使えるんですよね。CodeZineでもニュースにさせていただきました。

大坪 ありがとうございます。

codezine.jp

──エンジニアの継続的なアウトプットやコミュニティの盛り上がりに対し、はてなブログはどのように貢献していると考えていますか?

大坪 はてなブログは、自分の場所にできるように作られています。デザインも選べるし、JavaScript で細かい調整もできます。好みにカスタマイズできる自分のサイトの一つだと思っています。

プラットフォームの中の1記事ではなく、自分のポートフォリオのように使えて、「自分のページである」「自分のドメインである」という感覚を持てるサービスです。そんな中で、まずは自分の言語化のための場所だと思って使ってもらえるといいのかなと考えています

ブログの役割はツールだけではなくて、「はてなブログ タグ」をリリースしたように、ゆるくつながるコミュニティの一つだとも考えています。はてなブログ タグを使うことでテーマでつながれる体験を設計しようとしています。

自分たちも使っているサービスなので、細かい改善を積み重ねたり、細かいところに気が利いたりしているサービスであり続けたいです。

エンジニアにとっては、Markdownで書ける便利さもあると思いますし、記事データをAPIで読み書きできるのは、割とハックしやすいサービスであるのかなと。エンジニアに親和性の高いブログサービスとしては優秀なんじゃないかと思っています

──はてな社内では、エンジニアの情報発信についてどのような取り組みをしていますか?

大坪 「エンジニアとアウトプット」という話でいうと、もともとはてなのスタッフはエンジニアに限らずインターネットやテキスト文化と親和性が高い人が多くて、そういう意味で外に向けてアウトプットする機会も多かったのですが、その文化をちゃんと維持していくために昔から推奨してきました。

エンジニアが全員所属する技術グループでは「社内勉強会」を毎週1回実施しているのですが、その中で月に1回、前月にエンジニアがどんなブログを書いたか振り返って、月間で最もブックマーク数を集めた記事にはCTO賞が贈られ、その作者だけが特上寿司を食べられるという取り組みをしていました。みんなで参加する“お祭り感”を演出して、楽しく真面目にアウトプットを加速させていこうと。

近藤 寿司の件は、はてなのエンジニアさんがカンファレンスで紹介されているのを聞いたことがありますね。

大坪 最近は会社に集まれなくなったので、寿司も食べられなくなってしまって、寿司の予算だけが貯まっている感じです(笑)。

近藤 すごいお寿司が食べられそう(笑)。今でも月一の勉強会でブログを振り返っていらっしゃるんですか?

大坪 はい、「こういう記事があった」というのは今でも見ています。

はてなのエンジニアのバリューズ(価値観)をまとめており、その最後に「学びとオープンネス」を置いています。

developer.hatenastaff.com

大坪 僕たちが何か学んだり知識を獲得したりする時に、ちゃんと深く学び、その背景や理論まで知った上で技術を使っていくということであり、知識や経験をオープンに開示し続けることをみんなに推奨しています。それは僕がはてなのエンジニアにやってほしいことでもあるし、エンジニアがもとから持っている良さ、魅力であると思っています。

インターネットに向けてブログを書くのももちろんいいことです。その前段階として、チームの中に共有したり、社内向けブログを書いたりなど、テキストを出していってもらいたいと考えています。最近は新型コロナウイルスの影響であまり機会がなくなってしまいましたが、イベント登壇があれば支援しています。

「情報発信」というとちょっと大袈裟な感じがありますが、自分の知識や経験をまとめるプロセスを踏むことが大事だと思っています。自分の中の経験が再整理されると、本当に自分の中に落とし込めると考えているので、それをいろいろな人に普段のプロセスとしてやっていってほしいですね。

──はてなのエンジニア・開発者の中には、個人ブログで発信して登壇や外部寄稿に至ったケースもあります。具体的な事例を教えてください。

大坪 ブログの事例でいうと、はてな開発者ブログid:syou6162が記事を書いたら、後日GMOペパボ株式会社のエンジニアの方が、その記事へのアンサープレゼンテーションを作ってくれて、そこでつながりが生じたことがありましたね。面白い出来事でした。

データ基盤のメタデータを継続的に管理できる仕組みを作る - Hatena Developer Blog
データ基盤のメタデータを継続的に管理できる仕組みを作る(ペパボ編) / pepabohatena - Speaker Deck

あとはid:daiksyのデブサミでの登壇ですね。発表した内容がかなり多くの人に見ていただけて、寄稿や書籍にまで話が広がりました。

speakerdeck.com

近藤 Developers Summit 2020 KANSAI(デブサミ関西)を今年は8月に初めてオンラインで開催しまして、過去に登壇された方をお呼びして、キャリアに関するパネルディスカッションを開催しました。その際に、id:daiksyさんが「デブサミ関西に参加するようになってからいろいろ活動が広がってきた」とおっしゃってくださって、それがすごくうれしかったですね。

技術記事を書く際のITエンジニアと編集者の役割

──はてなでは企業としての情報発信と、エンジニア個人のブログでの情報発信について、それぞれの棲み分けをどう考えていますか?

大坪 基本的にはエンジニアの成長のためにオープンにやっていきましょうと言っているので、それが個人のブログであろうと会社のブログ(はてな開発者ブログ)であろうとどちらを使ってもいいというスタンスです。

はてな開発者ブログをうまく使ってほしいなとは考えています。例えば、「この人の中にこういう知見があるんだけどそれをちょっと出してもらえないかな」という際には、会社のブログの方が「こういうことをぜひ書いて」と言いやすいかもしれません。会社のブログでお願いすることで仕事の一環になりますが、アウトプットするか迷っていたものを引き出してあげられると、その人にとっても良いことになりますし、会社にとってもうれしいです。

最近ははてなの編集部も開発者ブログの運営に入っています。スケジュールを考えたりネタ探しをしたりということを先導してやってくれて僕たちとしては大変助かっていますし、はてなという組織の中に「編集」という職能のチームがあるからこそできることだと感じます。普段なら自分1人で考える記事を編集者にも見てもらって一緒に改善していけるという体験は、編集部が関わったからこそできることです。

──CodeZineでも編集者と著者のやりとりがあると思うのですが、どういうフローなのでしょうか?

近藤 「どういった連載をしましょうか」ということを打ち合わせをして、書いてくださる方がだいたいイメージできてアウトラインを作れそうなところまで話します。記事を作るための不安がなくなるくらいまでは一緒にブレストをして、それから目次を送っていただいて、フィードバックして、この内容で執筆していきましょうというケースが多いですね。それから締め切りを決めて執筆いただいて編集して……という作業を通じて公開していくというのが主な流れです。

大坪 「不安をなくしていく」というのがいいですよね。そこが1人で考えていると悩んじゃって膨らんじゃって、手が動かなくなる。そこで併走してくれる人がいるのはとても大事なことなんじゃないかと思います

──CodeZineがこれから目指す方針について教えていただけますか?

近藤 CodeZineの方針というより「私の野望や展望」なのですが、ソフトウェア開発者の成長に対してさまざまなシーンで貢献していくようなメディアを目指したいと思っています。

例えばCodeZineを読んで勉強して、現場で困った時にCodeZineを読み、デブサミに参加することで「こんな人がいるんだ、こんな世界があるんだ」と知った人がコミュニティや自分の組織で前向きなアクションをしていく。それでCodeZineでの執筆、デブサミでの登壇という場を通じてスキルアップしていく……というような、成長するにつれて翔泳社が提供するさまざまなプロダクトがさらに後押しするところに携われるんじゃないかと思います。

個人のアウトプットで新しい世界が広がっていく

──個人それぞれのアウトプットは、エンジニアのスキルやキャリアにどのように貢献すると考えていますか?

近藤 まず、一般論のような話ではあるんですが、アウトプットするということは、一度聞いたり体験したりしたことをアウトプット目線で発信することで、その過程がより学びになります。習慣がついていると、アウトプットするという視点から世の中で起きていることを見るようになるんですね。「登壇のネタになるな」とか。そういう状態そのものが学びになっているところが1つ。

2つ目は、ブログの記事を書いたりイベントに登壇したりすると、人のつながり、コミュニティとのつながりができやすくなるというところが、スキルアップやキャリアアップにつながると思います。ただ、これはブログとSNSと対面(勉強会など)でのコミュニケーションが3つそろっていて、初めて成り立つものかなと思っています。今は対面のコミュニケーションがやりづらいので、そこは難しくなっていると思っているところです。

3つ目は、私自身の実体験でアウトプットが良い効果をもたらした例として、自分との対話、内省につながっているんじゃないかなということがあります。今年から毎日日記を書くという取り組みをしていて、思ったことを割とだだ漏れに近い感じで書いていっています。コロナ禍で対面での雑談の機会も減ってしまいましたし、自分の考えを発信する状況がなかったとしたら、結構今の自分の状態やメンタルがだいぶ違ったかもしれないと思っています。

もう少しエンジニアに近い話でいうと、11月14日に開催されたカンファレンス「DevRel/Asia 2020」でCodeZineのリニューアルに関する登壇をしました。

speakerdeck.com

近藤 自分の仕事でやっていることを言語化していくと、やってきたことって実はこういうことだったんだ、と分かりました。CodeZineのリブランディングは、自分にとってはメディアとしての社会的責任に向き合う行為で、それを自覚・発信して、チームメンバーも鼓舞していくことだったんだとあらためて思いました。これまでアウトプットしてきたことがすごく役に立ったなと今思っています。

大坪 たぶん僕も近藤さんと同じことを言うことになるんですが……最後におっしゃったことがかなり僕の中では「そこだな」と思っています。自分がやってきたことを言語化するというプロセス自体にまず意味がある。文章にするということは、自分の頭の中のもやもやしたことを線形にならべていかないといけないですよね。そうすると、まず自分がやってきたことを振り返るという、少しメタな視点から見ることができる。

開発の中では「振り返り」をよくやると思うのですが、そういうことでチームを成長させていきますよね。「改善」というとちょっと安直かもしれませんが、少しずつ自分の中の蓄積にしていくというプロセス自体が、エンジニアのスキルとしてはもちろん、人間としての成長につながっていくと思っています。

技術的な話でいえば、一度言語化してみると、より見えなかったところが見えてくるというプロセスになります。もやもやしていた理解が明らかになることがあって、「ちゃんと深掘りしないといけない」「これは次回のネタになりそう」など、エンジニアという視点では新しい興味や新しい学習項目を見つけられるということがあるかなと思います。

自分の中の生煮えの理解でも何でもいいので、外に出してみる。「情報を出している人に情報が集まってくる」は実際にそうだと思っていて、そこに人が集まってくること、情報を出すこと自体が新しい情報を集める手段になっていると思っています。情報は人が持っているものなので、人と人とのつながりも何かしら生まれてくるのかなと。

近藤 以前発表したスライドを共有したいのですが……。

speakerdeck.com

大坪 おお。手書きですね。

近藤 手書きプレゼンにチャレンジしたくてやってみました。「習慣が大事ですよ」ということを発表した話です。「アウトプットをすると自分の成長になる」とよくいわれるけどどんなイメージなんだろうと思って。

以前は「すごいアウトプットをしなきゃ」という思いに駆られていたのですが、最近のアウトプット観は、「すごくないアウトプットを継続して、日記なりお絵かきなり、楽しくなんでもいろいろやる」。実際、一つ一つのアウトプットはたいして見られないのですが、継続すると「すごくないアウトプットによって作られたすごい人」ができて、それを誰かは見ているんじゃないかなと思っています。

大坪 アウトプットしたものに成果を求めるのではなくて、アウトプットすること自体に意味があって、それを繰り返すことが結局自分に蓄積されていく、というのはまさにそうだなぁと思いますね。

近藤 アウトプットもそうですし、何か前向きなアクション、例えば行ったことのないカンファレンスに行ってみる、新しくブログを書いてみるなどもそうですが、そういったことが大坪さんがおっしゃったような、いろいろな人の目に留まりうるような発信につながっていくのかなと思いました。

大坪 うまく刺さらないことの方が多いと思うんですが、それを積み重ねていくことによって新しく世界が広がっていくということはありますよね。

僕がエンジニアのキャリアに踏み出したのは、学生時代にインターネット上にしか居場所がなくて、ブログを書いていて、それがその時はてなにいた人の目に留まって、そこで初めて交流が生まれたことがきっかけだったので。インターネット活動を外に出していくということが、自分のキャリア作りにも貢献してきたのかなと思っています。

今は対面というコミュニケーションが今取りづらい状況なので、自分のアウトプットが誰かの目に触れる状態を作らないと、自分自身を振り返ることも他の人に知ってもらうことも難しいですよね。そういう中でも、ブログやTwitterなどに自分の考えをアウトプットして、見てくれる人とつながろうとする、つながっていくといいのではと考えています。

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近藤佑子id:kondoyuko

近藤佑子

株式会社翔泳社 CodeZine編集部 編集長、Developers Summit オーガナイザー。
1986年岡山県生まれ。京都大学工学部建築学科、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。フリーランスを経て2014年株式会社翔泳社に入社。ソフトウェア開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集・企画・運営に携わる。2017年より、ソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers Summit」のオーガナイザー。2020年6月、CodeZine編集長就任。キャッチコピーは「踊る編集者」。
ブログ:kondoyukoのカルチュラル・ハッカーズ
Twitter:@kondoyuko

大坪弘尚id:motemen

大坪弘尚

最高技術責任者 兼 サービスプラットフォーム部 部長。
2008年、東京大学大学院情報理工学系研究科を中退後、アプリケーションエンジニアとして新卒入社。うごメモはてな、Mackerelを始め、はてなの新サービス開発に数多く携わる。2012年より技術グループ チーフエンジニア、2016年に最高技術責任者に就任。 現在は、はてなのサービスおよび事業を支える基盤を開発・運用するサービスプラットフォーム部の部長を兼務しつつ、CTOとして技術組織全般の統括にも取り組んでいる。
ブログ:詩と創作・思索のひろば
Twitter:@motemen