誰でも人にとって面白い文章を書ける気がする。作家・山下泰平さんが語る「ブログの享楽」とは?【書籍プレゼントあり】

はてなブログのユーザーに、自身とブログについて語っていただく【「ブログを書く」ってどんなこと?】シリーズ。今回は、明治・大正時代の娯楽小説や文化を中心にブログで発信している文筆家の山下泰平(id:cocolog-nifty@kotoriko)さんに「ブログの享楽」についてインタビューで語っていただきました。

一見するとなじみのない文化や娯楽を軽快な語り口で紹介した記事が人気を博し、2019年には記事をきっかけにした書籍『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本(柏書房)を刊行した山下さん。今回は、そんな山下さんの間遠な情報をグッと分かりやすくするブログ術に迫ります!
書籍プレゼントキャンペーンもあるのでぜひ最後までご覧ください。

アイキャッチ

「楽しくなきゃダメ」ブログで明治・大正の文化を共有する理由とは?


──ブログでよく題材にしている明治・大正時代の文化に関心を持ったきっかけがあれば教えてください。

山下さん

端的に言えば暇つぶしですね(笑)

子どもの頃、夏目漱石のようなメジャーの作家の小説を読み始めました。こうした作家による小説は文学全集などにまとまっていて安かったので気軽に読めたんです。そこから徐々にマニアックなところにはまっていった感じですね。

──時代も文化も違う作品を幅広く読んでいると玉石混交で読むだけでも大変そうだな、という印象がありますが、その辺りはどうでしょうか?

山下さん

たくさん読んでいると、一般的には面白くないものもどんどん面白くなっていくんです。

特に、明治や大正の時代は情報量が少ないから、外国の小説など、たまたま読んだ別の作品の設定をそのまま自分の作品に使っちゃう、ということも多くて、その工夫が興味深いですね。

──文献はどうやって調べているんですか?

山下さん

基本的には「国立国会図書館デジタルコレクション」で読んでいます。掲載されている画像が写真だったりして読みにくいのでみんな読まないんですけど(笑) 慣れれば読めます。

その他にも、知りたいことに必要な情報は何でも読みます。最近では、韓国の大学が、韓国で刊行されていた日本の新聞を無料公開していて、それを20年分くらい読みましたね。新聞は日本語なんですが検索は韓国語なので、結構苦戦しました。

調べてみてアーカイブなどにないものは買う、という感じです。

──文献を読むのに、普段どのくらい時間をかけているんですか。

山下さん

時間ってあんまり考えたことないなぁ。楽しいから気の向くまま読むという感じ。「読んで楽しい」がなくなるとダメですね。

読む時期にもムラがあります。時期によっては、本当にバカみたいに読むことも。そんなときは──本当はダメだと思うんですけど──歩きながら読んでしまうこともあります。

──本当に楽しんで読んでいらっしゃるのが伝わります! 調べた情報をまとめてブログに書こうと思った理由はなんでしょうか?

山下さん

昨日のテレビや面白いゲーム、漫画などについて人に話したいことってありますよね。その延長線上でブログをやっています。

例えば、2020年に読んで面白かったのが明治時代の学生5人が無銭旅行をする本。この本についてはまだ記事にしていないのですが、こういう話を職場とかでしてもなかなか面白さを共有できない。でも千人、1万人の目に止まれば、中には面白がる人が1人くらいいると思うんです。

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『学生無銭徒歩旅行』(池田元太郎 等著)

人を惹きつけるタイトルを書く秘訣は〇〇の真似をすること!

──明治・大正文化を中心とした文献を数多く読まれているとブログにまとめるのは大変だと思いますが、どうやって調べたことを記録していますか?

山下さん

大学生の頃から読書メモを取っていて、どんなくだらないことでもとにかく書いておいています。メモはEmacsというエディタを使って、テキストデータでとっています。

調べたことをまとめて長い文章にする場合は、一生使えるような方法を考えてメモを取っておくといいと思います。

──明治・大正の文化や娯楽小説は一般的にはなじみの薄い分野だと思うのですが、山下さんのブログは幅広い人に読まれていますよね。ブログを書く際に何か意識されている工夫はありますか?

山下さん

「面白いな」と思うネタでもすぐに書かず、頭の片隅に置いて寝かせておくんです。そうして、別のものを読んだり、最近の文化を見たりしたときに、「このネタとこれはつなげられそうだ」となったら書く。身近な対象にくっつけて紹介するという感じです。

1年くらい経って読み返したり、時間を置いたりすると、前には気づかなかったことに気づくということもあるので。読んで面白かったものについて考えている時間は人より長いかもしれませんね。

あとは、区別しないこと。一般的な評価とは関係なくフラットにコンテンツに接するようにしているんです。

──ブログのタイトルや見出しに惹きつけられることも多いなと感じます。短い文章でグッと人の心をつかむ秘訣はありますか?

山下さん

西洋の昔の人のやり方を真似していますね。オペラの題名とか。

もともとは、クラシックの曲名や聖書の文体を見て「説明的だな」と思ったことがきっかけです。クラシック音楽の題名って、結構作品の内容をそのままタイトルにしているじゃないですか。

そういうところを真似して、今も続けているという感じです。

▼説明的なタイトル、その事例とは?
・「2台のピアノのための協奏曲」(モーツァルト)
・「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」(ラヴェル)
・『自分以外の全員が犠牲になった難破で岸辺に投げ出され、アメリカの浜辺、オルーノクという大河の河口近くの無人島で28年もたった一人で暮らし、最後には奇跡的に海賊船に助けられたヨーク出身の船乗りロビンソン・クルーソーの生涯と不思議で驚きに満ちた冒険についての記述』(ダニエル・デフォー)

日常を楽しもうとすると浮き出る「おかしさ」をそのまま書けば誰でも面白い


──ブログのタイトルが「山下泰平の趣味の方法」ということもあり、山下さんは趣味を大切にしている印象がありますが、趣味についてどうお考えですか?

山下さん

毎日楽しく暮らせた方がいいじゃないですか。でも、趣味って楽しいけどめんどくさいことも多いので、めんどくさくない範囲で生活が楽しくなる工夫はしていますね。

──その工夫について詳しく教えてください!

山下さん

最近だと、鍋のコゲとかを掃除する研磨剤を買おうとしたとき。普通に買ったらそれで終わりじゃないですか。そこで何がいいか調べたり、ドラッグストアを回って何が置いてあるのかを確認したりする。考えてみたら研磨剤についてググったことないなとか、研磨剤だけを買いにドラックストアに行くのって初めてだなとか、そういうどうでもいいことに気づくのが面白い。これだけで1週間楽しめるんです。

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山下さんが購入したという鍋の研磨剤


──そうやって「面白い」と思ったものをブログにしていく、という感じでしょうか?

山下さん

研磨剤についてはブログにするほどじゃないですけど、こういうことをやる中でブログに書きたいと思ったことをブログにしています。

自分は普通に考えているつもりなんですけど、ずっとその行為を続けていくと「何だかおかしくないか」と感じることがあるじゃないですか。そういうとき、自分の考えていることは絶対に何があっても100%の確率でおかしい。

だから、そういう瞬間をそのまま真面目に書くと何か面白くなる場合がある。自分が考えていることを客観視してみて変なところがあれば抽出して書いていますね。

誰にでもおかしな部分はあるので、誰でも人にとって面白い文章を書けるような気がしています。

▼夏目漱石が巧みに描く日常の「おかしさ」
日常の「おかしさ」を抽出した文章として、山下さんは夏目漱石の『吾輩は猫である』から「漱石が真面目に保険会社の人とした会話」を「戯画化した」ワンシーンを挙げています。
「こないだ保険会社の人が来て、是非御這入んなさいって、勧めているんでしょう、――いろいろ訳を言って、こう云う利益があるの、ああ云う利益があるのって、何でも一時間も話をしたんですが、どうしても這入らないの。うちだって貯蓄はなし、こうして小供は三人もあるし、せめて保険へでも這入ってくれるとよっぽど心丈夫なんですけれども、そんな事は少しも構わないんですもの」
「そうね、もしもの事があると不安心だわね」と十七八の娘に似合しからん世帯染じみたことを云う。
「その談判を蔭で聞いていると、本当に面白いのよ。なるほど保険の必要も認めないではない。必要なものだから会社も存在しているのだろう。しかし死なない以上は保険に這入る必要はないじゃないかって強情を張っているんです」
「叔父さんが?」
「ええ、すると会社の男が、それは死ななければ無論保険会社はいりません。しかし人間の命と云うものは丈夫なようで脆いもので、知らないうちに、いつ危険が逼(せま)っているか分りませんと云うとね、叔父さんは、大丈夫僕は死なない事に決心をしているって、まあ無法な事を云うんですよ」
「決心したって、死ぬわねえ。わたしなんか是非及第するつもりだったけれども、とうとう落第してしまったわ」
「保険社員もそう云うのよ。寿命は自分の自由にはなりません。決心で長生きが出来るものなら、誰も死ぬものはございませんって」
「保険会社の方が至当ですわ」
「至当でしょう。それがわからないの。いえ決して死なない。誓って死なないって威張るの」
「妙ね」

遊びは計画的にやっても続かない。ブログ継続のための遊び術

──山下さんは数万字規模の記事をコンスタントに発信している印象があります。骨太の記事を定期的に公開するために心がけていることはありますか?

山下さん

ないですね。仕事が暇なんですよ。だから自然に気が向いて書いていたらこうなりました。忙しくしなければ書けるんじゃないかな?

自分にとってブログは遊びなので、あんまり一生懸命計画的にやっていたら続かないと思います。

──時間の余裕は本当に大事ですよね。ブログ執筆にはどのくらい時間をかけていますか?

山下さん

執筆時間は紹介する作品や内容によりますね。1時間くらいでパッと書けるものもあるし、長く寝かせてじっくり書くものもあります。

次回作の構想は?ブログやSNS、書くことを続ける先にあるもの


──ここまでいろいろ聞いてきましたが、改めて、山下さんご自身のブログへのこだわりについて教えてください。

山下さん

こだわりは特にない気がします。

何より長くやり過ぎていてよく分からなくなっていますね。普通でまともであろうとは思っています。

──まともだと思いますよ! 最後にブログを通じて今後やっていきたいことはありますか?

山下さん

ブログやSNSで断片を作って、”おおきなかたまり”にできたらいいなと思っています。

昨年出した本のような感じ。今はAmazonのKDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)で古い子ども用の本を解説付きで復刻しました。これも面白さを共有したいっていう欲望の延長で、紹介するだけではなく昔の変な物語を直接読んでもらいたいなっていう感じです。


本当は編集の技術のある人がやったほうがいいんだろうけど、今は文化にお金が流れない時期なので、自分でやっていきます。




週刊はてなブログでは、山下泰平さんによる著作『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』を抽選で5名様に、『簡易生活のすすめ』を抽選で3名様にプレゼントします。詳細は以下の応募要項をご覧ください。たくさんのご応募、お待ちしています!


お話を伺った人:山下泰平id:cocolog-nifty

山下泰平

1977年生まれ。デジタルアーカイブを活用して明治・大正あたりの文化を調ベて文章を書く人。 textpresso@gmail.com

ブログ:山下泰平の趣味の方法
Twitter:@kotoriko


応募要項

応募期間 2020年12月28日(月)~2021年1月4日(月)
賞品・当選者数
  • 『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』5名様
  • 『簡易生活のすすめ』3名様
  • 応募方法 この記事を はてなブックマークに追加 してください。このエントリーをはてなブックマークに追加
    抽選と発表 応募期間終了後に厳正な抽選を行い、当選ユーザー様の登録メールアドレス宛に送付先情報等を確認するメールをお送りします(取得した情報は本賞品送付用途以外には使用いたしません)。どちらの書籍が当選するかについても抽選により決定いたします。なお、送付先は国内に限らせていただきます。
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