▶︎多様なスクリーン体験を支える、「映写」のお仕事。
はてなブログには、映画ファンの皆さんから日々さまざまな作品の感想や考察をお寄せいただいています。
新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの作品の公開延期や営業様態の変更を余儀なくされるなど、2020年は映画業界にとっても激動の一年だったと言えます。しかし、『TENET テネット』『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』をはじめとする数々のヒット作が登場。また2021年3月8日にはファン待望の『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』が封切られ、異例の月曜公開ながら初日の興行収入が8億円を突破するなど、今年にかけてうれしいニュースも届いています。
そんな状況の中、映画館で働く方たちはどんな思いを抱えて上映に臨んでいるのでしょうか?
週刊はてなブログ編集部が今回お話を伺ったのは、実際に映写スタッフとしてとある映画館に勤務しながら、ブログ「映写雑記」で音響設備やスクリーン、映画館の裏話など映画にまつわるさまざまなことを「映写」の視点からつづる雨宮アチャ id:achamiya さん。メールインタビューの中で、シアターの座席からは直接見えない「映写」というお仕事とブログ執筆・コロナ禍と映画などについてたっぷりお聞きしました。
読んだ後、いろいろな映画館に足を運んでみたくなるインタビューです。
雨宮さんと映写のお仕事
──いつもはてなブログをご利用いただきありがとうございます。初めに、雨宮さんから簡単な自己紹介をお願いいたします。
とある田舎の映画館で映写スタッフをしています、雨宮アチャと言います。今では少し珍しく映写の仕事のみ専属でやらせてもらっています。
映写のこと以外はあまり詳しくないですが、よろしくお願いします。
──雨宮さんはとある映画館で映写のお仕事をなさっているとのことですが、映写とはどのようなお仕事なのでしょうか?
映写の仕事は、簡単にいうとクリエイターの方々が作った映画をお客様に最高の状態でサーブする仕事です。
具体的には、お客様に映画をお出しする前に、試写テストをして問題なく上映ができるかのチェックをしたり、担当者が決めた上映スケジュールに合わせて映画の上映を時間通りにスタートしたり終わらせたりします。
あとは、設備の保守作業なんかですね。
映写といえば35mmフィルムを想像される方がいます。今の主流はデジタル上映なので減ってしまいましたが、そのフィルムを切ってつないで映写機にセットするという仕事もあります。
映画を最高の状態でお客様に楽しんでもらうためにいつも映写スタッフ全員で奮闘しています。
▶︎「映写雑記」から、こちらの記事もどうぞ
映写のお仕事を解説するよ - 映写雑記
たまたま始めたアルバイトから映写の道へ
──雨宮さんが映写のお仕事に携わるようになったきっかけは何でしょうか?
すごく面白みがないのですが、10代の頃たまたまアルバイトで始めたのがきっかけです。
実は最初から映画が大好きというわけでもなかったのですが、人と接する仕事はあんまりしたくないし、もともと機械いじりと映像や音楽のコンテンツが好きだったので「ちょうどいいや」っていうとっても安易な考えでした。でも、始めてから何だかんだと映写が好きになり続けています。
映写はお客さんとの「勝負」
──「映写」というお仕事に魅力を感じるところ、楽しいと思うところは何でしょうか?
映画が終わった後には、人の反応があります。
放心していたり、号泣していたり、笑顔だったりいろんな反応が見られます。
これは経験則なのですが、映写のセッティングが甘いと反応が甘いというか、イマイチなんです。特に何も知識とかが無い一般の方の反応が分かりやすくイマイチになります。
だから私は映画館で映画を見てもらうのは、映画を楽しんでもらえるか、お客様とのガチンコ勝負だと思っています。
映画が終わった後に感情剥き出しの反応を見た時に、「勝負に勝ったぜ!」と思うのですが、その時が一番楽しいし魅力を感じますね。
ブログが「映画を見るために映画館を選ぶ」きっかけになれば
──雨宮さんのブログ「映写雑記」では、普段映画館に足を運ぶだけではなかなか得られない映写にまつわる知識や情報が紹介されており、読んでいてとても楽しいです。どんな思いからブログを執筆しようと思ったのでしょうか?
映画を見に行くとき、最寄りの映画館に行く人が多いと思います。
見たい映画は選んでも「映画館を選ぶ」ってあまり浸透してないと思うので、映画を見るために映画館を選ぶっていう考えを持つきっかけになればいいなと思ったのが始まりです。
そのためには、映画館って館によって個性が違うよってことを知ってもらわなければと思いました。
同じチェーン系列のシネコンでも全く違います。IMAXやドルビーシネマといった全世界共通の基準の劇場でも各映画館で全く違います。
さらにそこの映画館にいる映写スタッフの力量でも変わってきます。
そして、そもそも「何が違うか」ということ自体、ある程度の知識がないと分かりません。
じゃあどうするかと考えた時に、映写からの視点を知ってもらった方が早いなと思い、ブログを書き始めました。
だんだんと趣味垂れ流しの一部のマニアや身内向けみたいな感じになってしまいつつありますが、自分の中にはそんなわりと壮大な思いがあります。
──ブログ「映写雑記」を書いていて楽しいこと、良かったことはありますか?
完全にプライベートで書いてるブログなのですが、ある時ブログで紹介した映画を作った人たちに記事を見つけてもらえて、良い記事って褒められたことですかね。
的外れな内容は書いてなかったということだと思うので安心しましたが、「やべ、バレた」ってちょっと焦りもしました。
▶︎「映写雑記」から、こちらの記事もどうぞ
映画を観るか、映画館を観るか - 映写雑記
映写視点でオススメする4つの映画
──日々多くの作品を目にされている雨宮さんの視点で、映画館で見るのにイチオシの映画作品と、その理由を教えてください。
たくさんあり過ぎて選びきれないですが、全く同じ理由なので4つほど選びました。
- 『プライベート・ライアン』(1998年)
- 『かぐや姫の物語』(2013年)
- 『ゼロ・グラビティ』(2013年)
- 『TENET テネット』(2020年)
ですかね。
理由は4作品とも映画館と映写の力量がものすごく試される映画だからです。
映写機のセッティングが甘いと映像がまともに出ず、音響設備を甘えれば、まともに音が出ません。
家であれば、大富豪のホームシアターでないかぎりは絶対に作った人が意図した映像と音で見ることができません。
ストーリーでのおすすめ理由はもっと詳しい人たちに任せてしまいたいので、やはり映写として面白いと感じる作品でピックアップしてみました。
どれも過去作になってしまっていますが、再上映があった場合、優先的に見に行ってほしい映画です。そしてその映画館がちゃんとした映画館か見定めてください(笑)
これからのこと
──「映写担当」として映画館を見つめる中で、コロナ禍(新型コロナウイルス感染症)について思うことを率直にお聞かせください。
時代的に、映画配給各社がネット配信を主軸とした映画の展開をしていくというのは予測していたのですが、コロナ禍でそれがとても加速したと思います。
そのため今以上に映画館の良さや存在意義が分かりにくくなってくると予想していて、ワクチンが出回って状況が落ち着いてもそこは戻らないと思うので、基本は配給される作品ありきの受け身な映画館の文化なのですが、今はやりの爆音*1とかの変化球以外で、「映画館で見る映画」はとってもいいぞって私たちからアクションしないといけないなと思っています。
──最後に、これからのブログ執筆の展望などありましたらお教えください。
ブログを起点にツイッターとかYouTubeなどの活動もそのうちできたらなーと思っています。
映画館のことを知りたいと思った時に、みんながアクセスできる「ちょっとマニアックなアーカイブ」としていろいろ残していきたいと思っているので、まだまだ未熟ではありますが、よろしくお願いします。
お話を伺った人:雨宮アチャ(id:achamiya)さん
普段は映画館で映写スタッフとして働きながら、ブログ「映写雑記」で映画館の音響から映画の感想まで、映写の視点からさまざまに書いています。
ブログ:映写雑記
*1:爆音上映:音楽ライブ用の機材などを使用し、大音響で映画を上映する方式。