「南極へ行ってみたい」と、誰もが一度は考えるのではないでしょうか。南極への憧れを行動に移し、2015年12月より第57次日本南極地域観測隊に参加しているみなもとやすひろ (id:nankyoku_30nin)さんは、南極での暮らしをはてなブログに投稿しています。週刊はてなブログで以前、みなもとさんへの質問を募集したところ、たくさんの応募がありました。今回は皆さんから寄せられた質問を中心に、なかなか知ることができない南極のネット事情、そして南極での暮らしについて、メールインタビューを行いました。ぜひご一読ください。
(記事中の写真はすべてみなもとさんにご提供いただきました)
南極・昭和基地にあるインテルサット衛星通信設備
「基地内にはWi-Fiも」南極からブログを書く方法
──南極からブログを書く方法、機器について詳しくお聞かせください。また、南極ならではの制限などはありますか?
昭和基地は国内と衛星回線で結ばれていて、24時間ネット接続できます。ただし、観測データなどの伝送が優先されていて、その残りの回線を分け合っているようなかたちです。動画など大容量の使用は控えるようにと言われていますが、ブログを更新する程度のWeb接続であれば、制限はありません。基地内にはWi-Fiもあるので、スマホも使うことができますが、わたしはノートパソコンを使っています。写真は、デジタル一眼レフカメラとコンパクトカメラを使い分けています。こちらに来て、コンパクトカメラひとつと、一眼レフのレンズが1本壊れましたが、修理に出したり買い替えたりはできません。
みなもとさんがブログ執筆に用いている道具
一方、日本と南極を往復する南極観測船「しらせ」船上では、インターネット接続はできません。メールは使えるのでブログを書くことはできますが、写真のファイルサイズなどはかなり小さくする必要があります。更新した記事を自分で見ることもできません。
南極のペンギンとUFO
──皆さんからいただいた質問を紹介します。「ペンギンやシロクマなどのイメージが強い南極ですが、実際に見かけることはありますか? また、UFOを見たことありますか?」
ペンギンは、夏ごろ(南半球では12月〜2月)によく見かけます。寒くなって海が氷で閉ざされてしまうと、昭和基地の周辺には来てくれません。シロクマは南極にはいません。UFOは……。見たっていう隊員もいますが、私はまだ見てません。
「アイスって食べたくなりますか?」昭和基地の食べ物事情
──南極の食べ物事情に関する質問も数多くいただいています。「アイスクリームは食べたくなりますか? 実際に食べれますか?」
昭和基地には甘いもの好きな人が多いです。日本で買ったアイスクリームは週に1回、金曜日のお昼に食べられます。ソフトクリームマシンもありますよ。こちらは月に1回の営業です。
──「日本に帰ったときに一番食べたいと思うものは何ですか?」
新鮮な春の野菜ですね。日本に帰るのは3月末なので、おいしい春野菜、山菜、たけのこなどを食べたいです。歯ごたえと香りに憧れます。
──「基地の人気メニューベスト3を教えてください!」
昭和基地の食事はメニューを見て注文するのではなく、調理担当隊員が工夫をこらした献立をいただくという形ですので、人気メニューがはっきりしません。とくに晩ごはんは「同じようなものが何度も出てくる」ということがないので「アレがいいなあ」という声もあまり聞こえてきません。毎週金曜日のお昼ごはんのカレーライスは、「食べ過ぎたー」という声がいつも上がります。ラーメンも人気ですね。あとひとつ、挙げるとすればなんだろう……。
食堂の様子
「Amazonって届きますか?」
──「昭和基地に持っていける私物はどのくらいの量ですか?」
明確な制限はないです。「常識の範囲内で」と言われるくらいで、○箱まで、✕キログラムまで、といった制限はないです。わたしはダンボールで衣類が7つ、本が2つ、雑貨・日用品が3つ、でした。防寒着がかさばるので、衣類は多くなります。
居室の様子
──「Amazonは届きますか? また、物資はどういった頻度で届きますか?」
ネット通販でいろんなものを買うことはできますが、手元に届くのは年に1回、12月下旬に南極観測船「しらせ」が昭和基地に来るときだけです。
南極での体力作り。「心がけているのは、調子の悪いときに機嫌を悪くしないこと」
──「運動不足解消の仕方を教えてください」
基地はそれなりに広くて、食堂、洗面所、トイレなどと自室が離れているので、普通に暮らしていても一日あたり9,000歩くらいは歩いています。雪かきの手伝いなどにいけば、運動不足を感じることはありません。ランニングマシーンなどで鍛えている隊員もいますが、わたしは、お天気の良いときに散歩するくらいです。
──「頑張り力が尽きてしまいそうなときはどうしてますか?」
「そのうちなんとかなるだろう」「そのうち調子のいい時もくるでしょう」と思って、日々を淡々と過ごすようにしています。仕事のことであれば、優先順位はさておいて、あまり頑張らなくていい、手のつけやすいことからこなしていきます。心がけているのは、調子の悪いときに機嫌を悪くしないこと。閉鎖的な団体生活のマナーだと思っています。カラ元気も元気のうち!
──「独りになりたいな……と思ったら、やはり、基地内を出て、そのあたりをそぞろ歩きするのですか? それとも布団をかぶって独りの世界に入るのですか?」
部屋で音楽や落語を聞いています。越冬期間中は個室に入れるので、独りになるのは難しくありません。往復の船内や、夏の間は、個室はトイレだけ、ということになります。散歩は大好きですが、天気の良いときにかぎります。
──「南極では風邪をひかないって本当ですか?」
越冬中は風邪をひくことはないみたいです。ただ、風邪は身体が弱っているサインでもあります。気をつけないと。
──ユーザーからいただいた質問は以上となります。次からは再び、はてな編集部からの質問です。
「オーロラの勉強をしているうちに、南極観測隊員へ」
──第48次隊に参加され「その時の体験が素晴らしくてもう一度参加したいと思った」とブログに書かれています *1 。最初に南極に行こうと思った理由、南極の魅力について教えてください。
最初はオーロラに対する憧れでした。学生の頃、初めての海外旅行でアラスカにオーロラを見に行きました。そこからオーロラの勉強をしているうちに、南極観測隊員になる、ということが決して手の届かないものではないことがわかってきました。
南極の魅力については、見事なオーロラとか、美しい朝焼け、夕焼けとか、たくさんあります。それに、(たぶん)日本有数の意欲の高い人たちと仕事ができることが魅力です。
南極からブログを発信する理由
──最後に、ブログを始めたきっかけ、そして書き続ける理由について教えてください。
きっかけはふたつあります。ひとつは、行ってみたいけど行けないひとに、南極と隊員の今を紹介するのもおもしろいかな、と思ったこと。わたしは幸運にも南極観測隊員になる夢が叶いましたが、努力すれば必ずなれる訳ではありませんから。ふたつめは、記録を公開していくことによって、一年あまりの南極での日々を、別の視点から見ていけるのではないかと考えたこと、です。ブログを書くときに想定している(いた)読者は、今年の3月に亡くなった十数年来の友人です。闘病生活も長く、わたしの帰国後に再会するのは難しいであろうことは、わかっていました。
毎日更新は彼の存在がなければやっていなかったと思います。訃報を聞いたから更新を滞らせるってのもなんだなあ、と思いながら、いつしか今日まで続けてきました。
南極・昭和基地からブログを執筆しているみなもとさん
* *
南極との出会いや憧れ、南極での暮らし、そしてブログを書き続ける理由についてお聞きすることができました。自分の日々について、考えていることについてブログを書くことは、読んだ誰かのために、なにより自分のためになりそうです。ぜひあなたもはてなブログに投稿してみてください!
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みなもとさんのブログ「世間がもし30人の基地だったら」は、はてなブログのお題でもこれまで何度かピックアップしています。あわせてお読みください。