小さくともたくましい「弱虫」の生き様がぼくらに教えてくれること(寄稿:ネイチャーエンジニア・亀田恭平)

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『ネイチャーエンジニア いきものブログ』で全国各地の動植物を観察し続けてきた亀田さんによる「小さな生き物」たちから学ぶ、生き方。記事末にプレゼント情報もあります! この記事は、はてな×KADOKAWAで取り組む「ブログ書籍化プロジェクト」で出版される書籍のプロモーション記事です。

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生き物を探す著者

僕らの暮らす社会は、環境変化が激しく、厳しい世界でもある。

グローバル化、スマホの普及。さらに最近では、新型コロナウイルスの影響によるオンライン化、リモート化によって国や自治体、企業に大きな変化をもたらした。

企業よりも弱く、小さな存在である、僕たち個人の生活に対する影響はさらに大きい。様々な仕事において、ワークスタイルの変化・適応が求められているのだ。

弱者である僕たちは、このような社会においてどのように行動したら良いのだろうか──。

ふと身の回りを見回してみると、僕らよりもさらに小さいながらも、僕らよりももっと厳しい世界を長い間生き抜いているものたちがいる。

昆虫や草花など、「小さな動植物たち」だ。

彼らは、知恵を絞って工夫をし、実にたくましく野生の世界を生き抜いている。そんな”動植物の生きざま”から得られる学びは、僕らが仕事や人生を生き抜くためのヒントとなるだろう。

僕、亀田恭平@ネイチャーエンジニアは、業務委託でシステム開発の仕事をする傍ら、ブログやアプリで身近な動植物の魅力を発信する事業を行っている。年間100回以上全国各地で生き物観察をし、今まで4,500種類以上の動植物に出会ってきた。

この度、ありがたいことにKADOKAWAさんから『弱虫の生きざま』という本を出版させていただくこととなった。本記事では、著書で紹介している「動物の生きざまから得られる学び」について、その一部を紹介したい。

すごい能力を持っているのは、派手な動植物ばかりではない


「すごい動植物」と聞くと、どのようなものが思いつくだろうか。

・「百獣の王」と呼ばれるライオン
・「陸棲動物の中で最大級の大きさ」を誇るゾウ
・「推定樹齢3000年以上」と言われる縄文杉

「すごい」という言葉に、僕らは「最強」「最大」「長寿」などを求めてしまうものだ。

ところが、このような派手な動植物以外にも、すごい動植物はいる。それは、僕らの身近な場所で暮らす小さな動植物たち。「弱者」と見られているものたちだ。

彼らは、先ほど挙げたような一見して分かる派手なすごさは持たない。しかしながら、強者との正面衝突では勝てない代わりに、知恵を絞り、環境や他の生物を利用する戦略を取って現代まで生き延びている。

そんな小さな動植物たちの習性や能力にこそ、僕たちにとって多くの学びがある、と僕は考えている。

例えば、「シオヤアブ」という、ハエ目ムシヒキアブ科の昆虫がいる。

シオヤアブ(著者撮影)

シオヤアブは肉食性のアブで、他の昆虫類を捕食する習性を持つ。そのターゲットにはなんと、人間すらも恐れるスズメバチも含まれる。

スズメバチは高い戦闘力を持つ大型のハチで、体格で劣るシオヤアブが正面衝突をすれば勝ち目は低く、返り討ちにあう可能性の方が高い。

そこで彼らが取った作戦が「ゲリラ戦」だ。
見渡しやすい場所でターゲットをじっと待つ。対象を定めると、背後から鋭い口吻をブスッと刺して仕留めるのだ。まるで隠密裏に行動する忍者のようである。

イギリスの航空工学エンジニアF・W・ランチェスター (1868〜1946)が発見した戦いの法則に「ランチェスター戦略」がある。現在ではビジネス戦略としてもよく使われている。

この戦略の中には、「奇襲の原則」というものがある。小さいものが大きいものに勝つには「一騎打ち戦・局地戦・接近戦」が有効であるというものだ。シオヤアブはこの原則のことなど知らないだろうが、強者であるスズメバチに勝つために、自然とこの原則を用いているのだ。

このシオヤアブの生きざまは、戦い方次第では実力者からも勝利を掴み取れる、ということを僕たちに教えてくれている。

このように、身近で一見地味に見える動植物たちにも、面白くてすごい能力を持つものがたくさんいる。そして彼らの生きざまには、僕らの社会生活に活かせるヒントで溢れているのだ。

ステージをあげるのに必要なのは、変化を恐れないこと(ナミアゲハ)


ナミアゲハ(単にアゲハチョウとも呼ばれる)は、僕たちにとっても馴染み深いチョウだ。

ナミアゲハの成虫(著者撮影)

ナミアゲハは、成虫のチョウの姿になるまでに、成長に合わせて3回大きく姿を変化させる。

卵 → 幼虫 → さなぎ → 成虫

成長に合わせて姿を大きく変化させることを「変態」というが、チョウはこのような4段階の「完全変態」をする昆虫だ。(3段階のものは「不完全変態」と言う)

なぜ昆虫たちは、変態をするのだろうか?

それは、成長ステージに合わせて、「自らの形態を最適化している」からと考えられる。

生き物の生物学的目的を「子孫を残すこと」と考えてみると、成虫以前では「無事成虫になること」がミッションであり、成虫では「生殖活動をすること」がミッションとなる。

昆虫が成虫になることを「羽化」というが、名前の通り昆虫の多くは成虫になると「翅(はね)」を持ち、空を飛ぶことができるようになる。遠距離移動することで、離れた場所にいるパートナーと出会うことができるのだ。

成虫以前の段階では、できるだけ安全に成虫にならなくてはならない。ナミアゲハは、「若齢幼虫」という幼虫初期の段階では、白黒姿の「鳥の糞」のような姿をしているが、さなぎ間近の「終齢幼虫」の段階では、緑色のいわゆる「アオムシ」姿となる。
ナミアゲハ若齢幼虫(著者撮影)

ナミアゲハ終齢幼虫(著者撮影)

なぜナミアゲハは、このような姿の変化をするのだろうか。

僕がバイブルとしている安田守さんの著書「イモムシの教科書」の中で、以下のような研究報告が紹介されている。

「小さな若齢サイズでは緑色型よりも糞色型の方が鳥の攻撃を受けず、終齢ほどの大きなサイズでは糞色型よりも緑色型の方が攻撃を受けないという」
出典:安田守『イモムシの教科書』(文一総合出版)


このように、ナミアゲハは敵から捕食されにくくするため、自身の成長状態を見極めて体を緑色に変化させて対応させているのだ。

このナミアゲハの生きざまは、人間社会への学びとすることができる。

僕が長年携わっているITエンジニアの場合も、年齢やキャリアと共に必要なスキルが変化する。

若手エンジニアに求められるものは、仕様にしたがって、より早く正確に実装するスキル、といった「作業」に関する能力であることが多い。しかしキャリアが10年を超えるようになると、「要件定義」「全体設計」「マネジメント」など、仕事を作る・調整する役割を求められるようになる。

このステージにおいて「作業をこなせるだけ」では、自身が年齢を重ねた時にいずれ仕事が少なくなるか、あるとしても収入は伸びにくくなってしまうだろう。

この問題に対する有効な打開策が、年齢に合わせて仕事の質や役割を遷移する、「変態」をしていくことだ。

ステージに合わせて自身を変化させることは、未経験の分野に挑戦することが多くなり、決して簡単なことではない。しかしながら、自身の成長状態を見極めながら、自身の役割をステップアップすることが、厳しいビジネス社会での生き抜く最善策となりえるだろう。

強さの秘密は見えない基礎部分にある


カタバミは都会の道端でも見られる、小さな黄色い花を咲かせるかわいらしい植物だ。

カタバミ(著者撮影)

都会は植物にとって暮らしにくい環境だ。空気は乾燥していて、地面は硬く、気温も上がりやすい。その都会という厳しい環境で、カタバミは繁栄している。かわいらしい見かけに似合わず、とてもたくましい植物なのである。

カタバミは外からは見えない部分に強力な武器を持っている。その武器とは「根」である。

カタバミの茎は、地面を這うように横に伸びていく。そしてそれぞれの節から根を出す。コンクリートに覆われた都会で植物が生き抜くためには、硬い地面に根を張り、コンクリートの下まで根を伸ばす必要がある。いわゆる雑草と呼ばれるカタバミは、硬い地面を突き刺すことのできる強力な根を持っているのだ。

人間社会を振り返ってみても、外側から見える派手なパフォーマンスを下支えしているものは、基礎的なものであることが多い。

身の回りでも、一緒に仕事をしていて「作業が早い上にミスも少ない」という人がいるだろう。こういった優秀な人は、基本的なことを地道に行なっているものだ。

例えば、作業の早さの要因は「作業の戻りが少ない」であったりする。作業の戻りを少なくするのに必要なことは、”作業に手をつける前に最終成果物の確認をすること”だ。さらに深堀りしてみると、認識違いを少なくするための「確認ポイント」を押さえている、ということが重要だ。

確認ポイントを押さえるスキルを身につけるには、実は失敗の経験を多く積まなくてはならない。具体的には、以下のような経験だ。

1.作業する
2.成果物の確認&指摘を受ける
3.間違いの根本原因を理解する
4.間違いを正す


この経験を積む際は、手抜きをしてはいけない。成果物の確認の機会そのものが少なければ、間違いに気付き正す訓練の数が減ってしまう。また、3を端折って言われた通りに正すだけであれば、自分の判断力は向上しない。

誰でもスタートは同じであり、間違いも犯すものだ。しかしながら、100回間違いをした時に、100回正した人と、1度も正さなかった人がいた場合、そこには100レベルもの差が生まれる。この両者には「大きなパフォーマンスの差」として表れる。外からは根となる部分は見られづらく、センスや才能の違いとされがちであるが、その決定的な違いは基礎的な部分であることも多い。

一見地味でおとなしく見えても、コツコツと下地を作っている人は、いずれ大きな成果を出す可能性が高いのだ。

僕らも目に見える派手な結果を効率的に追うばかりでなく、まずはカタバミのように、足元にしっかりと根を張れているかを確認すべきだろう。まだ張れていないようであれば、どんな根を張ろうかということを考えてみるのも悪くはない。

動植物が教えてくれる学びは、まだまだたくさんある


今回、動植物の生きざまの一部を紹介したが、動植物から得られる学びはまだまだたくさんある。

『弱虫の生きざま』では45の動植物の例を、「人生戦略」「ビジネス戦略」「人間関係」など5つのテーマに分けて紹介している。登場する生き物のほとんどは、公園などで見られる身近なものばかり。名前や姿は知っていても、意外と知らない驚きの能力や習性を、ぜひ楽しく知ってもらえればと思う。

この本が、あなたの人生を楽しくするためのヒントになり、そして少しでも身近な小さな動植物に興味を持ってもらえたら幸いだ。

著者:亀田恭平id:kkamedev

山田耕史

ネイチャーエンジニア。フリーランスでシステムエンジニアとして務める傍ら、動植物の観察を行っている。観察の対象は歩いて出会える生き物全般。年間で100日以上、全国各地に赴き、これまで4500種以上の生き物に出会ってきた。自身の目・足で観察した生き物の魅力を、「ネイチャーエンジニア いきものブログ」で紹介している。また、生き物に関する独自のスマホアプリも開発し、配信をしている。
ブログ:ネイチャーエンジニア いきものブログ

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応募要項

応募期間 2020年6月30日(火)~2020年7月6日(月)23:59
賞品・当選者数 『弱虫の生きざま』10名様
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