そこで、週刊はてなブログでは「好きなもの・こと」についてつづるはてなブロガーに、その思いを語っていただく連載【わたしの偏愛】を始めます。
第2回となる今回は、ブログ「石をつかんで潜め(Nip the Buds)」の芽むしりさん (id:taira-bon) に「深夜ラジオの面白さ」について寄稿いただきました。もともとお笑いが好きで、特にTBSラジオのJUNKという枠を偏愛していたという芽むしりさん。しかし、2020年はJUNKと双璧をなすオールナイトニッポンの放送に強烈な印象を受けたそう。特に印象深かったという「ナインティナインのオールナイトニッポン」と「霜降り明星のオールナイトニッポン」についてつづっていただきました。
初めまして、芽むしりと申します。はてなブログにて、お笑いについてのテキストをメインとするブログ「石をつかんで潜め」をやっている者です。たまに電柱理論というラジオネームで投稿しています。
ブログにいろいろと書いているくらいですから、もちろんお笑いが大好きなのですが、その中でも特に深夜ラジオを愛しています。どのくらいラジオが好きかというと、深夜ラジオの休憩にセンスの良い音楽が流れるラジオを挟んでいるぐらいには生活の中にラジオが浸透しています。
2020年のANNでは「事件」が巻き起こっていた
そんな僕はいわゆるJUNK派です。
JUNKとは、TBSラジオで毎週月曜日から土曜日までの25時から27時まで放送されているラジオ番組の枠のこと。2002年にスタートして以来、基本的にはお笑い芸人のみのパーソナリティーで構成されているところに特徴があります。
対するオールナイトニッポン(ANN)とは、同時間帯に放送される1967年にスタートしたラジオ番組の枠のこと。2012年に新設された、27時から28時半まで(金曜日と土曜日は29時まで)放送されるオールナイトニッポン0(ANN0)の枠も、すっかりラジオリスナーにはおなじみの存在となりました。
この2つの枠は同時間帯に放送されていることもあり、よく比較対象になるのですが、もう何年も聴取率(テレビでいう視聴率)や話題性などにおいて、JUNKに軍配が上がってきたという歴史があります。そもそもラジオにおいては全体的にTBSラジオが無類の強さを誇るのですが、JUNKは2010年の改編以降、一度もパーソナリティーの変更がなく、根強いファンに支えられていること、そして噂を聞きつけた人が新規リスナーになっていくという好循環が続いていることが、理由として大きかったように思います。
僕はJUNKという枠が作られる少し前から、『伊集院光 深夜の馬鹿力』『爆笑問題カーボーイ』を聞き始め、今に至るまでリスナーですので、人生においてJUNKを聞いている期間のほうが長い。終了してしまった番組も含め、いくつものJUNKを聞いていますが、そもそもこの2つの番組に出会っていなければ、深夜ラジオという文化をここまで愛しているかどうかは分かりません。
そんな背景からも、この両番組には並々ならぬ強い愛着を抱いていると自負しています。投稿したメールを初めて読まれた時の心が震えるほどのうれしさは今でも忘れられません。この2つの番組が大黒柱となっているJUNKがあってこその、今の深夜ラジオシーンだとも思っています。
ただ、そんなJUNK派の僕から見ても、2020年のANN・ANN0は熱かった。
この2つの枠の魅力は、まずJUNKとは対照的なパーソナリティーの多様性にあります。俳優の菅田将暉に加えて、ミュージシャンの星野源、Creepy Nutsのほか、一昨年からはテレビ東京で裏方として働く佐久間宣行、昨年からはYouTuberの水溜まりボンドの番組までスタートしました。
ラジオを聞き始めた当初は、笑うことだけが目的でしたが、こうした幅広い番組に触れることで、いつしかパーソナリティから、映画・落語・小説・音楽などのカルチャー、果ては人生観といったあらゆることをリスナーとして学ぶようになっていました。今のANN・ANN0にはそういった面白さ以外のことも教えてくれる、ポップカルチャーを横断する魅力があります。
例えば、Creepy Nutsは僕が知らないHIPHOPの曲をかけることも多いため、新たな音楽を学ぶきっかけになりましたし、テレビ東京の番組プロデューサーである佐久間宣行は、Netflixでのお勧めの作品から、東京でしか見られない少しマイナーな演劇の話まで話してくれるので、ポップカルチャーを横断的に知ることができました。
しかし、そうした幅広いラインナップに加えて、昨年のANNが熱かった理由は、番組で起きた「事件」たちに心を掴まれてしまったからです。それは、『ナインティナインのANN』と『霜降り明星のANN0』で起きました。
まさかのナイナイ復活を経て岡村隆史の結婚へ
まず、『ナインティナインのANN』においては、約5年半振りの復活そのものが事件だったと言えるでしょう。2014年に矢部浩之が卒業して以来、ずっと岡村隆史が1人でパーソナリティーを務めていましたが、件の問題となった発言をきっかけに矢部が復活。
それを経て再開した当初は、お互いを意識しすぎていたのか、どこかフワフワして距離感をつかみあぐねている感じが初々しく、30年のキャリアを持つコンビなのに付き合いたてのカップルのようでニヤニヤが止まりませんでした。ただ、そこから数回放送するだけで、丁々発止の掛け合いになっていったのも、さすが。
ここにきて、新たなナイナイをのぞき見できるとは夢にも思わず、それだけでも十分に大事件なのですが、そんな中で突然、「岡村隆史が結婚した」というビッグニュースが報じられました。僕自身を含め、そのニュースに衝撃を受けたリスナーたちは、色めきだってそわそわしながら、次回の放送(2020.10.22)を待ちました。
いよいよ放送当日。普通の感覚であれば、番組が始まったらすぐに入籍届を出しに行った時の話が聞けると思ってしまいますが、そこは深夜ラジオ。裏をかいてきます。なぜなら、その方が面白いから。
番組開始数分のオープニングトークは、矢部が誕生日を迎えた話。この時点で日本各地のリスナーは「報道の件はしばらく触れないな」と察してニヤリとし、矢部の話を聞きながら、僕と同じように「矢部っちの誕生日トークより大事な話があるだろ!」と内心で一斉にツッコミをいれたことでしょう。
その後aikoが登場してからも、矢部はもともとやる予定であった「ドッキドキの初体験…!今日から矢部は!!」に乗っ取り、初めてらっきょうを食べてみたり、田村正和のモノマネにチャレンジしたりします。モノマネは初めてだったということもあり、絶妙に似てなかったところには大笑いしました。
ひとしきり、矢部が初体験をすませた番組開始37分ごろ。矢部に促された岡村から「結婚しました!」と報告。
そこでようやく「やっと聞けた!」と嬉しくなり、祝福できました。やはり、リスナーの気持ちとしては、最初に本人の口から知りたかったということがあるので、報道により事前に知ってしまったという瑕疵(かし)はできてしまいましたが、だからこそ、リスナーは番組が始まっても岡村の結婚に全く触れずに、矢部がさまざまな初体験をこなしていくという、ミニコントの共演者になることができたとも言えます。
番組の後半、ナイナイとaikoが3人で歌ったaikoの「ボーイフレンド」は多幸感に溢れていました。
スキャンダル後に見せた霜降りの青臭い姿
もう一つの『霜降り明星のANN0』での事件は、何といっても通称「ポケひみ回(2020.6.19)」として今も語り草となっている放送だと思います。
例のせいやのスキャンダルが報道された週の放送、霜降り明星の2人は何を話すのかとリスナーは気もそぞろとなっていましたが、放送でせいやが取った手は「ポケットいっぱいの秘密」というコーナーを2時間ぶっ通しで放送するということでした。
このコーナーは、アグネス・チャンの「ポケットいっぱいの秘密」という曲に乗せながら、リスナーから投稿された小さな秘密を紹介していくというもの。ただし、それは形だけ。実態はせいやがクレイジーマンとなってボケ倒すというもの。
例えば、このときはせいやが競馬の実況を再現しているうち、せいやのモノマネレパートリーでもあるミキの昴生が競走馬として走り出してきたり、藤原竜也が主演した映画『カイジ』シリーズの一幕を再現したり、完全にカオスの様相(このような混沌としたノリは、文章にすればするほど、面白さが減ってしまうようで心苦しい)。
特にすごかったのは、『笑っていいとも!』のグランドフィナーレでの、とんねるずやダウンタウンらの集結を再現したパート。赤ちゃんのころの記憶も残っていると話すほどに卓越したせいやの記憶力と、モノマネのうまさが織りなした再現度の高さはピカイチで、ここだけでも何度も聞いてしまうほどのクオリティ。
毎週聞いているリスナーから、野次馬根性で初めて聞いた人までに共通する「どう弁明するのか」という問いに、「ボケ倒すコーナーを2時間ぶっ通す」という予想を遥かに上回った回答とその見事さに放送後のSNS上は騒然となっていました。
きっかけとなった行為は、決して褒められたものではないことはもちろんなのですが、せいやが一世一代ともいえる大博打を打ち、勝利したという事実そのものに痺れてしまいました。それから僕は「霜降り、ちゃんと聞かねえと駄目だな」と襟を正しました。
相方である粗品も負けてはいません。通称「粗品ツッコミ千本ノック回(2020.8.14)」も圧巻でした。2時間ボケ倒したせいやへのアンサーかのごとく、粗品は、せいやが体調不良で放送を休んだ週に、リスナーへ大喜利を出題。送られてきたリスナーからのメールを読み上げながらツッコむということを2時間ぶっ通しで、総計1,000通へのツッコミを成し遂げました。
何というか、いずれも良い意味での霜降り明星の青臭さを感じる放送だったと思います。
もちろん、事件だけに期待しなくても、トークは面白いし、コーナーも充実しています。『霜降り明星のANN0』についてはPodcastとしてSpotifyなどでも公式に配信されているので、今回紹介した事件を含め、いつでも過去の放送を振り返ることができます。
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この2つの番組に限らず、バラエティー豊かなラインナップを誇るANN・ANN0は、一度全ての番組を一周してみれば、心に引っかかる番組がきっと見つかるはず。
もちろん、ANN・ANN0、JUNK以外にも、面白いラジオ番組は、時間帯を問わず山ほどあります。TBSラジオの『さらば青春の光がTaダ、Baカ、Saワギ』は、土曜日27時に放送しているからこそ許されているようなきわどい面白さです。文化放送の『宮下草薙の15分』は、宮下草薙の飾らない生活の話をひっそりと聞いていると、友達になったような気持ちになってきます。
2020年を振り返ると、例年以上にラジオを多く聞いた一年でした。単純に面白い放送が多かったということもありますが、テレビを積極的に見られなくなっていたからです。
その理由はもちろん、新型コロナウイルス。まいっている現実から少しでも逃れようとバラエティーを見ていても、ふいに入ってくるニュースからのどぎつい情報で、滅入ってしまうことも少なくありませんでした。反面、ラジオは聴覚だけのメディアなので、パーソナリティーのトークを聞いている間は、新型コロナウイルスにまつわるあれやこれやを頭の片隅に追いやることができました。
また、深夜ラジオの特徴のひとつに、「今週、ずっと家にいたから話すことが何も無くてさぁ」というトークが成立するということがありますが、特にそのような放送に「自分も何もない一週間だったけど、別に良いんだな」と、とても救われました。
面白いだけに留まらず、いろいろな形で寄り添ってくれる番組がある限り、僕の深夜ラジオへの偏愛はまだまだ止められなさそうです。
著者:芽むしり(id:taira-bon)
ブログ「石をつかんで潜め」。同人誌「俺だって日藝中退したかった」「俗物ウィキペディア」。QuickJapan149号にて電柱理論名義で寄稿しました。
ブログ:石をつかんで潜め(Nip the Buds)
Twitter:@memushiri