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データ駆動野球観戦のすすめ - お笑いとラジオ、データ分析が野球の楽しさを教えてくれた【わたしの偏愛】

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こうしたブロガーの皆さんの情熱をお伝えすべく、週刊はてなブログでは「好きなもの・こと」についてつづるはてなブロガーに、その思いを語っていただく連載わたしの偏愛を実施しています。

第7回となる今回は、「Lean Baseball」のshinyorkeさん (id:shinyorke) に「データ駆動野球観戦」について寄稿いただきました。大の野球ファンであり、データサイエンティストでもあるshinyorkeさんは、野球観戦の際も電卓を叩き、「あのスコアが意味するところ」を徹底的に解析するといいます。野球×データという、マニアックな視点を得るきっかけ。意外な驚きをくれるデータ分析手法など、shinyorkeさんの提唱する「データ駆動野球観戦」のあれこれをつづってもらいました。

データ駆動野球観戦メインカット

はじめまして。shinyorke(しんよーく)と申します。

私は7年ほど前から「Lean Baseball」というブログで、ソフトウェア・エンジニアリングやデータサイエンス、自分のキャリア、そして野球について記事を書いています。

野球好きが高じ、2018年から約1年半、スポーツ、特に野球のデータ解析・分析の会社のリードエンジニアとして働いていた時期もありました。現在はニュース・報道ベンチャーのエンジニア兼データサイエンティストとして働いています。

私にとって、野球を楽しむうえでの軸は、数字やデータです。打率、防御率などはもちろん、選手がプレーすることで刻まれる、さまざまな数字を読み解き、自分なりにあれこれ考え仮説を立てるのは、なんとも奥深い世界です。この記事では、私がライフワークとして追求してきた「データ駆動野球観戦の面白さと奥深さ」をつづりたいと思います。

野球好きになったきっかけは「新庄剛志」「お笑い」「深夜ラジオ」

私が野球をエンターテインメント・趣味として意識したのは1995年頃のこと。元々野球を見るのが好きな母や弟に付き合い、テレビで観戦するようになってからでした。

そして、どっぷりと野球にはまるようになったきっかけは、阪神タイガースにありました。当時阪神タイガースに在籍していた新庄剛志選手のダイナミックな守備・強肩に驚き、藪恵壹選手が時折見せる、完封勝利へと至るすさまじいピッチングに圧倒されたのです。

加えて、桧山進次郎選手。桧山選手は新庄選手と双璧をなす強打者で、当時の阪神タイガースの主軸でしたが、この新庄、桧山両選手が二人してリーグ最多三振を競う(97年シーズン)といった、とほほなトピックも含め、阪神タイガースを中心に野球がどんどん好きになっていったのです。

また、当時は『松村邦洋のオールナイトニッポン(ニッポン放送)』や『伊集院光 深夜の馬鹿力(TBSラジオ)』など、大の野球好きで知られるお笑いタレントの深夜ラジオをよく聴いていたことも、私の野球好きに影響しました。

彼らのラジオではプロ野球の話題がよく出ますが、「阪神タイガースだけ、三角ベースでプレーさせてもらったら最下位脱出できるのでは?」など、野球ネタにはめちゃくちゃ笑わせてもらいました。90年代の阪神タイガースは優勝とはほど遠い、いわば暗黒期にあったチームで、それゆえ、阪神タイガースをいじるトークがすごく多かったのでしょう。こうしたネタトークをもっと理解して笑いたい、という一心で阪神タイガースの情報を追いかけるうち、いつしか私は阪神タイガースファンになっていたのです。

私の人生と野球観を変えた『マネー・ボール』

データ駆動野球観戦PCのイメージカット

新庄選手の大ファンだった私にとって、毎朝届くスポーツ新聞の成績欄を眺めるのも、大きな楽しみの一つでした。「新庄が今日5打数3安打ぐらい打ったら打率.250になる!」といった具合に、新庄選手の浮沈を予測していたことをよく覚えています。新庄選手だけでなく、気になる選手の打率や防御率を計算するのがシーズン中の日課でした。今にして思えば、この日課が「データ駆動野球観戦」のはじめの一歩だったのでしょう。

その後、2000年から私は社会人になり、一人暮らしをはじめてからも野球はよく見ていました。忙しくなり、テレビで野球を見る時間こそ減りましたが、『すぽると!(フジテレビ)』などの深夜に放送されるスポーツニュースで、日々の野球トピックを追いかけたり、iモードのプロ野球速報やニュースを通勤電車内で読みながら、文字で野球を楽しんだりしていました。

そして2001年、新庄選手(もちろんイチロー選手も)が米メジャーリーグに移籍することになり、私の興味も少しずつメジャーリーグに広がっていったのです。新庄、イチロー両選手の影響で、この頃はニューヨーク・メッツやシアトル・マリナーズの選手の名前ばっかり覚えてました(メッツの捕手だったマイク・ピアッツァとか、マリナーズの二塁手だったブレット・ブーンとか)。

とはいえ、まだまだメジャーリーグさっぱりわからん!という感じだったこの頃、私はあるテレビ番組に出会います。とんねるず・石橋貴明さんがホストを務めるトーク番組『MLB主義(TBS)』です。番組名のとおり、メジャーリーグにまつわるトピックを深掘るこの番組でメジャーリーグのあれこれや、貴さんならではの「マニアックで奥深いエピソード」を見ては興奮していたのです。

そして2004年のある放送回で「盗塁はしなくていい、送りバントなんて、もってのほか」という「新しい時代の野球」と銘打たれた特集が組まれました。当時の私は送りバントや細かい走塁で守り勝つ、いわゆる「スモールベースボール」が大好きだったので「そんな野球絶対面白くない、無理やろ!」と憤慨しつつ、チャンネルを合わせました。しかし放送をすべて見終わった後、「なんだこの野球!面白いじゃん!!」と全身に稲妻が落ちるような衝撃を受け、番組で紹介されたある本を放送翌日に買ってすぐに読んだのです。

番組で紹介された本の名前は『マネー・ボール』。後にブラッド・ピット主演で映画化もされたのでご存じの方も多いと思いますが、「統計・データ分析がいかに重要で、ゲームの勝敗に影響するか」をこれでもかと描いた同書は、野球のみならずスポーツ全般に大きな影響を与えました。そして、当時25歳だった私の人生も決定づけることになったのです。

マネー・ボールを自分ではじめる

『マネー・ボール』は貧乏球団だったオークランド・アスレチックスのGM、ビリー・ビーンがデータ分析を駆使し実現させた快進撃を描いたノンフィクション作品です。そして、ビリー・ビーンがデータ分析の指針としたのが、野球データ分析の基本的な考え方・概念である「セイバーメトリクス」でした。この概念の信奉者となった私は、

  • 打率や防御率だけでなく、「出塁率」「長打率」といった「地味だが統計的に意味ある数字」を見たり計算したりするようになった
  • 試合を見ながら、「今の盗塁は有効か」「そもそも、バントではなく打たせることが有効な戦術では?」など、プレーの一つ一つを考えるようになった
  • オンライン野球ゲームに勝つため、『マネー・ボール』のようなやり方でチーム選びや選手起用を決めたりするようになった

など、野球の楽しみ方もだいぶ変わりました。

なお、その後、球場に観戦に行く際も、必ず電卓を持っていくようになりました。データを見て電卓を叩くことで、「この投手とこの打線ならば、おそらく凡退が続くな。今のうちにビール買ってこよう」など、データによる意思決定ができるようになったのは、うれしい副産物でした(笑)。

こうした野球とデータに向き合う日々は、私のキャリアにも影響を与えました。野球を見ては電卓を叩き、オンラインゲームに勝つために分析を続けるうちに、「いつの日か野球データ分析を仕事にできるといいな」という夢を持つようになっていったのです。

自分なりに分析と研究を行い、その結果をブログに書き、エンジニアやデータサイエンティスト向けのイベントで登壇発表を繰り返すうちに、ある企業から連絡をもらいました。スポーツデータを解析・提供し、選手育成やチーム運営サポートなどをビジネスとするその会社に、CTO(最高技術責任者)として加わらないか、というものでした。断る理由のないオファーです。ブログで野球やデータサイエンスにまつわる情報を発信するようになってから、3年。野球エンジニアになりたい、という私の夢は、正夢になったのです。

プロ野球をはじめ、本物の野球でデータ解析や分析をした経験は、私にとって非常に貴重なものでした。

今すぐ楽しめる「データ駆動野球観戦」

データ駆動野球観戦電卓のイメージカット

野球を見ながらブラウザの電卓を使って選手を見ています

さて、私がどっぷりとはまった「データ駆動野球観戦」ですが、この楽しさをぜひ皆さんにも味わってもらいたいです。日米のプロ野球チームで実践されるレベルのデータ解析・分析を(主にデータの入手という観点で)一般の方がするのはなかなか難しいのですが、「新聞やインターネットで入手できる数字」を使った分析でも、野球はもっと面白く見られます。

例えば、私は野球をデータで見るとき、以下のように数字を眺めます。

  • 基本的には投手も野手も「三振」「四球」「本塁打(被本塁打)」にまつわる数字を追いかける
  • 上記の数字を「投球回数」「打数」などで割り、解析対象の選手が「どんな選手か?」を知る
  • 「三振数÷四球数」「四球数÷三振数」といった計算をすると、選手の安定感がわかる

試しに、今とんでもない活躍を見せている、オオタニサンこと大谷翔平選手の数字を眺めてみます。大谷選手は(この記事を執筆した)2021年7月4日現在、 273打数で「打率.278、30本塁打、66打点」という記録を残しています。なお、三振は87個、それに、36個の四球を選んでいます。このデータを簡単に分析してみると……

  • 30本塁打はメジャーリーグ全体1位で、87三振は全体19位と、いずれの数字もリーグ上位にランクイン
  • 36四球はメジャーリーグ全体27位
  • 「打数÷三振」で「三振のしにくさ(AB / Kといわれる比率で、数字が大きいほど、三振しにくい選手と評価できる)」を見ると「3.13(273÷87)」、本塁打王争いのライバル、ブラディミール・ゲレーロJr.選手は「4.90(294÷60)」で、「大谷はゲレーロJr.より三振しやすい」とわかる
  • 「三振÷四球」で「一つ四球を選ぶたびに何回三振するか」を見ると、大谷選手は「2.41(87÷36)」、ゲレーロJr.選手は「1.05(60÷57)」で「大谷は一度歩くと2三振、ゲレーロJr.は1三振する」とわかる
  • 総じて、オオタニサンは「ホームランめっちゃ打つけど他の選手より三振がしやすい」ことがわかる

こんな情報が読み取れます。「三振が多い」という事実はわかりやすいですが、ポイントになるのは、四球の少なさです。「三振が多くて四球が少ない」とは、よくバットを振るタイプの選手であると解釈できます。つまり、大谷選手はどんなボールでもバットを振っていく積極性がある、言い換えると、ちょっとした“粗さ”もあると読み解けます。このように、データを読み解くと破竹の勢いを見せる大谷選手にも意外な一面がある、と見えてきます

私は野球を見ながら、PCや手元のスマホで成績を調べて電卓を使うことがよくあります。今回の大谷選手は日本中が注目している選手なので、“意外な一面”がわかりやすいのですが、「めったに見ないチームの、聞いたことのない選手が突然出てくる」といった場合、こうした分析を行うと、その選手の特徴が大まかにつかめるので便利だったりします(AB / Kが大きいと、わりと雑な選手なのかな、四球をよく選ぶけど、慎重な選手なのかな、など)。

データ分析と野球で感動とお笑いを

私は今、データ駆動野球観戦を楽しみながら、

  • 機械学習・データサイエンスの力を使って「野球AI」を開発
  • 野球AIで実現できることを、ブログや登壇を通してアウトプット

といった活動をしています。最近では「もしもTOKYO 2020侍JAPAN24名をAIが選出したら」というテーマでブログを書いた結果、多くの反響と笑いをいただきました。予想だにしなかった突然のT-岡田選手代表選出は、結果を見たとき自分でも驚いてしまいました(誤解のないようお伝えしておくと、データサイエンス的観点でもT-岡田選手は優れた選手なので、真面目な結果でもあります)。

こういった活動を通じていつの日か、石橋貴明さんのYouTubeチャンネル『貴ちゃんねるず』の『貴ちゃんスポーツ』や、『S-PARKチャンネル』内の『MONDAY BASEBALL』など「よく見ているYouTubeチャンネルに野球データ分析者枠で登場する」という野望を抱いています。

私の野球ブログや登壇発表には、必ずと言っていいほど「選手・野球へのリスペクト」と「ちょっとしたお笑い」を落とし込んでいます。前者は野球の素晴らしさを教えてくれた選手や球界への恩返しで、後者は野球の楽しみ方を教えてくれた深夜ラジオやテレビ番組、インターネットへのオマージュであり感謝です。そしてなにより、「野球とデータって、こんなに面白い!」と、皆さんにどんどんお伝えしていきたいのです。

今後ももちろん、「データ駆動野球観戦」をテーマに発信を続けていきます。その結果、皆さんが「野球って面白い!」と感じてくださったら、これ以上の喜びはありません。

著者:shinyorkeid:shinyorke

shinyorke

報道ベンチャーのシニアエンジニアとして、Webサービス開発・企画およびAI・データサイエンスの仕事をする傍ら、ブログ『Lean Baseball』でエンジニアな話題からキャリアそして人生を変えた野球データサイエンスのことをつづっています。普段着はUK RockのバンドTシャツで、idである「shinyorke」という名前はRADIOHEADのトム・ヨークが由来になっています。
ブログ:Lean Baseball
Twitter:@shinyorke


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