接客業は無理やり笑顔…。「脱社畜ブログ」が教える、「感情労働」の疲弊から身を守るためにすべきこと【書籍プレゼントあり】

【書籍のプレゼント情報あります!】
『脱社畜ブログ』で「働き方」を長年書き続けてきた日野さんが近年、社会問題化している「感情労働」とそのストレスから自分を守る働き方を伝授してくれました。 記事末にプレゼント情報もあります! この記事は、はてな×KADOKAWAで取り組む「ブログ書籍化プロジェクト」で出版される書籍のプロモーション記事です。

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みなさん、こんにちは。日野瑛太郎(id:dennou_kurage)と申します。普段は、「脱社畜ブログ」というブログを運営しています。

僕がブログを開設したのは2012年で、それからもう8年の月日が経過しました。時には年に2回しか更新しないなど著しく更新が停滞した時期を挟みつつ、今もマイペースで更新しています。

僕がこれまでつづってきたブログのメインテーマは、「日本人の働き方」でした。ブログで情報発信を始めてから、社会では「働き方改革」なる言葉も登場し、「日本人の働き方」を見直そうという考え方は急速に拡がっています。もちろん、まだまだ問題は多く残されているのですが*1、それでも「変わっていっている」という実感があります。

しかし一方で、「働き方改革」では何も改革されなかった、そもそも議論にすらほとんど上げられなかったと思われる問題が残されていることに最近気が付きました。それが本稿のテーマでもあり、このたびKADOKAWAさんから出版させていただく本のテーマにもなっている「感情労働」の問題です。

「感情労働」という言葉自体は、少しずつメディアなどでも取り上げられる機会が増えてきています。なのでご存じの方もいるかもしれませんが、それでもこの言葉は、例えば「ブラック企業」といった言葉ほどの知名度は獲得していないように思えます。しかし、日本社会に深く深く浸透し、社会問題化しているという点で「感情労働」は「ブラック企業」と同じかそれ以上であると僕は思います。

そこで本稿では、「感情労働」とはそもそも何なのか、どういう点が問題になっているのかについて簡単に説明した上で、そんな「感情労働」から身を守るために気を付けるべきことをいくつか提言します。もちろん本稿で触れられる話は一部だけなので、「感情労働」についてもっと詳しく知りたいという方、「感情労働」に興味を持ったという方は、ぜひ僕の本を手に取ってみていただければと思います。

そもそも「感情労働」とは何なのか?

古くからある労働の分類に「肉体労働」や「頭脳労働」といったものがありますが、「感情労働」はこれらに続く第三の労働形態だといわれています。肉体労働が肉体を使ってする労働であり、頭脳労働が頭脳を使ってする労働であることから類推して分かるとおり、感情労働とは感情を使ってする労働のことです。

では具体的に、「感情を使ってする労働」とはどういう労働のことなのでしょうか? イメージの湧きやすい例でいうと、飲食店や小売店などで行われる「接客」は一般的にどれも感情労働と考えて差し支えありません。

飲食店でも小売店でも、店員は基本的に笑顔で接客を行います。笑顔は本来、楽しい感情が湧いた時に作られるものですが、接客の仕事をしている店員は必ずしも楽しいと心から思って笑顔を作っているわけではありません。彼らが笑顔を作る理由は「その方が客の印象がよいから」「業務上それが求められているから」であり、ここでの感情は「業務遂行のための手段」になっています。感情労働を「感情を使ってする労働」と説明したのはそういう意味です。

このような感情労働は非常にストレスフルな仕事でもあります。先の接客の例でいえば、店員は自分の素の感情とは別に、その業務にふさわしい感情を表出することが求められます。例えば、どんなに相手が非常識な客だったとしても、素の感情に流されて「うるさい! 帰れ!」と怒鳴りつけることは日本の慣習だと許されません。クレーマー相手でも、我慢して笑顔で対応するのが接客の仕事の「あるべき姿」だと考えられています。これが働く人にとって過大なストレスになり、燃え尽き症候群などを引き起こしているという指摘もあります。*2

特に日本では諸外国に比べて客の立場が圧倒的に強く、多くのサービス業の現場で、店員が激しい感情労働を強いられて疲弊しています。「おもてなし」の言葉に象徴されるように、日本のサービス業の水準は世界でもトップクラスですが、それは裏を返せば、それだけ日本の感情労働が過酷であるということを意味しています。

「お客様は神様」なので店員には何をしてもいいと思っている残念な人たち

最近だと、新型コロナウイルス騒動でトイレットペーパーが入手困難になった際に、ドラッグストアの店員が多くの客から暴言や心無い言葉を吐かれて疲弊しているというTwitter上の投稿がニュースで取り上げられ話題になりました。

自分たちが悪いわけではないのに、トイレットペーパーの在庫がないことについて「申し訳ありません」と謝罪をしなければならず、それまで普通の客だった人たちがイライラを店員にぶつけてくる状況に、投稿者の方は疲れ切っているようでした。

これなどは、まさに日本に広く過酷な感情労働が蔓延していることを象徴した出来事だと思います。本来であれば、客と店員はどちらも同じ人間で、立場が一時的に違うだけの対等な関係のはずですが、簡単にイライラを店員にぶつけてしまう人たちの認識ではそうはなっていないようです。

以上は非常時の話ですが、非常時でなくても、客が店員に対して過剰な要求や迷惑行為を行う「カスタマーハラスメント」と呼ばれる事例はこれまでも数多く報告されています。

詳しい事例は書籍にいくつも載せましたが、客が店員の些細なミスを執拗に攻撃して土下座を要求する、家まで謝罪に来いと呼び付けて数時間にわたって拘束をするといった、接客というよりも単なるハラスメントであると捉えられる事件が、サービス業の現場では頻発しています。日本には「お客様は神様である」という言葉を旗印に、客という立場でなら店員に対して何をしてもいいのだと思ってしまっている輩が一定数おり、しかもほとんど野放しになってしまっています。

今やサービス業だけに限らない感情労働

ここまでの話は主にサービス業に関する話ですが、実は「感情労働」という労働形態が蔓延しているという状況は、サービス業だけに限った話ではありません。これは学術的な分類とは必ずしも一致しませんが、僕個人は、オフィスで働いている会社員のような人たちでも、感情労働は日常的に行っていると考えています。

例えば、顧客や上司といった「立場上言い返せない相手」に対して、感情を装った経験がある会社員は決して少なくないと思います。これには、飲み会の場で上司の自慢話を興味がある振りをしながら聞いたり、全社集会などでホンネとは必ずしも一致しないアツい言葉を言わされたりする、といったものも含まれます。

日本の職場では、自己主張よりも空気を読むことを要請されるところが少なくありません。このような職場で働く場合には、自分の素の感情を抑制したり、あるいは偽ったりしながらうまく浮かないように振る舞う必要があります。これはもう立派な感情労働だと僕は思います。

つまり、今や感情労働はサービス業だけの問題というわけではなく、日本で働く人全員に広く関係する問題になっているというわけです。

なぜ日本はこんなにも感情労働大国になってしまったのか?

ところで、なぜ日本はこんなにも感情労働が蔓延する国になってしまったのでしょうか? もともと感情労働という言葉が最初に生まれたのはアメリカですが*3、そのアメリカではここまでサービス業に従事する人が感情労働で疲弊しているという状況にはなっていません。アメリカでは客と店員は対等という認識が一般的ですし、非常識なクレーマーはそもそも最初からまともな接客を受けられません。もちろん、アメリカでも一部の人たちは感情労働に従事し問題を抱えていますが、どちらかというと看護師や客室乗務員など、特定の職業に固有の問題とされています。日本のような社会全体で感情労働をしている国は、世界的に見ても珍しいと言えます*4

理由はいくつか考えられそうです。

まずひとつは、日本人が「気づかい」や「察し」を重視するコミュニケーションスタイルを好んでおり、これが感情労働と結びつきやすいというものです。

日本には、気づかいのできる人が「よいサービスの提供者である」という暗黙の前提があります。例えば、とある旅館では、小さな子連れで宿泊すると、特にこちらから何も言わなくても、おむつバケツや塗り絵といった子連れに必要なものを気を利かせて用意してくれるそうです。これらはもちろん店側の善意によるものなのですが、そうやってさまざまなサービス提供者が「気づかい」に基づくサービスを提供していくと、いつしか気づかいは「善意でやるもの」から、「やらなければいけないもの」へと昇格し、最終的には「気づかいができないやつはけしからん」という話になってしまいます。そうやってサービス業の求められるハードルが上がりまくってしまった結果が、今の日本の感情労働地獄を招いてしまったと言えます。

もうひとつの理由は、働き手側の価値観の問題です。日本では、仕事で「やりがい」を重視する人が非常に多くいます。別に、仕事に「やりがい」を求めること自体は悪いことでもなんでもないのですが、問題なのは、それによって「やりがいさえあればお金は別にそれほどもらえなくてもよい」という人が出てくることです。こういう考え方で働く人が多くなると、どんなに良いサービスを提供しても、それは賃金に反映されなくなります。賃金に反映されなければ末端価格にも転嫁しないので、一般消費者は「サービスはゼロ円で受けられるもの」という誤った認識を抱く人も出てくるようになってしまいます。その結果、消費者の要求水準だけが高くなり、現場の疲弊はより加速します。

厳しい言い方をすれば、日本が感情労働地獄になってしまった理由の一端は、働き手側が自分のサービスを安売りしてきたからとも言えるのです。

「感情労働」の疲弊から身を守るために

では、このような過酷な感情労働から、僕たちはどうやって自分の身を守っていけばよいのでしょうか。書籍では全部で8つほど感情労働から身を守るために気をつけたいこと・できることを挙げていますが、ここではその一部だけ紹介します。

まず、感情労働の仕事をする場合には「完璧を目指さない」ことが極めて重要になります。感情労働の仕事は、全て相手がいることが前提になっています。自分だけで完結する感情労働というものは考えられません。

となると、感情労働がうまくいくかどうかは、どんなにベストを尽くしたとしても、結局は相手次第ということになります。例えば、接客業で働く人がどんなに非の打ち所がない接客ができたとします。しかし受け手がそう思わなかったら満足の行く結果は得られません。そういう不利なゲームをする以上、達成目標は低めに設定しておかないと、必ず心を疲弊させます。

そこで、感情労働の仕事をするなら、まずは「50点取れれば合格」と考えることをおすすめします。具体的には、サービスを提供した2人に1人が特に問題ないと感じられるような仕事ができれば、もうそれで十分に自分を褒めてよいということです。

また、これとは別に、感情労働の仕事をする人には「値段相応」という考え方もぜひ身につけていただきたいと思っています。「値段相応」という言葉は、普通は消費者側が使うものだと思いますが、ここではそうではなくサービス提供者が「値段相応」の接客を心がけることを推奨しています。

つまり、時給1000円のアルバイトとして働いているなら、時給1000円なりの接客でよいという考え方を身につけるということです。日本には、給料の額面に関係なく「仕事をする以上はつねにプロとして全力で仕事をすべきだ」という非論理的な言説が一部にあります。そういう意見はもう無視しましょう。(もちろん、全力で仕事をやりたいと思うこと自体は個人の自由ですので、その価値観自体は尊重されるべきです。ただ、これは他人が強要してよいことではありません。)そうやって働き手側が「値段相応」を意識できるようになれば、サービスの価値は賃金に反映され、それが末端価格に反映されることで、やがて「サービスはゼロ円で受けられるもの」といった日本の誤った価値観も緩和されるようになると僕は信じています。

「感情労働」について書かなければならないことは他にもたくさんあるのですが、今回は一部に絞って書かせていただきました。興味を持たれた方や、現にいま感情労働で疲弊しているという方は、ぜひ書籍も手に取ってみていただければ幸いです。

著者:日野瑛太郎id:dennou_kurage

山田耕史

1985年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学院在学中、就職するのが嫌で起業をするが、あえなく失敗。結局、嫌で嫌で仕方がなかった就職をすることになる。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。以後、日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)、『脱社畜の働き方』(技術評論社)などがある。
ブログ:脱社畜ブログ
Twitter:日野瑛太郎 (@dennou_kurage) | Twitter

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編集:はてな編集部

*1:僕は決して政府が言うところの「働き方改革」に満足しているわけではありません。念のため

*2:感情労働と燃え尽き症候群に関するする論文などはこちら

*3:アメリカの社会学者A・R・ホックシールドが最初に提唱したと言われています

*4:ただし、感情労働が過酷な国は日本「だけ」ではありません。お隣の韓国も日本と肩を並べられるほどの感情労働大国です